熾烈!悪と正義の戦いの歴史! 2
梅木、というのは、ダークネクロムの首領、ドクターフェルシルが人間の社会に溶け込むために名乗った苗字である。つまり、俺はドクターフェルシルの直系の子孫、というわけである。
小さい頃に両親を亡くした俺は、祖父である梅木晋蔵に引き取られ、以来、未来の梅木、ひいては未来のドクターフェルシルの称号を引き継ぐための英才教育を施された。
なんでも、俺の父親は戦いを嫌って梅木の家を飛び出したらしい。
なので、父の代では、正義の味方との決着がつかず、先祖の悲願を達成できなかった。だから、俺が、その先祖の悲願を達成するのが使命であると、何度も爺様からは言い聞かされた。
それを小さい頃から聞いていた俺は完全にそれを信じた。もちろん、今となっても、それが洗脳であるとかは全く思わない。
今、俺がこうしてドクターフェルシルの名前を引き継いでいるのは俺自身の選択であるし、爺様がそれを強制したとは微塵も思っていない。
それに、爺様はダークネクロムの首領になるには、凡庸な世間の人間と同じような能力を持っていてはダメだとして、俺に本当の意味で英才教育も受けさせた。
おかげで五歳にして高校生レベルの数学問題が解けるようになったのはそのせいだし、巨大ロボットの複雑な操縦がこなせるのも、その影響も大きくあるのだと思う。
「聖治?」
と、そんな風に過去の回想に耽っていると、真奈が顔を覗き込んできた。
黒い美しい瞳に覗き込まれて、さすがの悪の首領も少し動揺してしまう。
「あ、ああ……すまん。ぼぉっとしていた」
「ぼぉっとしているのはいつもでしょ。戦闘中もぼぉっとしていたのかしら?」
「……戦闘中はそんなことはない。俺はいつでも神経を研ぎ澄まして戦いに挑んでいるさ」
「それでも勝てないっていうのは、なんとも絶望的ね」
俺は苦々しい顔で真奈を睨んだが、涼しい顔の真奈はまるで俺のことなど相手にしていないようだった。
もちろん、この佐倉真奈……俺に許婚がいるのも爺様のおかげだ。
梅木の血を絶やさぬようにと、かつてのダークネクロムの幹部の中の娘の中でも優秀な娘を、と選んできたのがこの梅木真奈だったのである。
出会った当初は、世界にこんなにも可愛らしい子がいるのかと、驚いたものであった。
もちろん、それは既に10年も前のことだけれど。
今では、どうにも皮肉屋になって、可愛らしい、とはお世辞にも言えない。
昔は、本当に可愛らしかったのだが……時の流れと言うのは残酷なものである。