新たなステージへ
「はぁ……で、本日で410敗北目、というわけね」
それから数日後。
リビングで夕食をとっていた俺は、隣でさもいやみったらしくそういう真奈の言葉が俺の耳に手痛く突き刺さってきた。
「せっかく、効率のいい精神攻撃を見つけたと思ったのに、それもあっという間に克服されちゃって……世界征服もはかない夢だったわ」
「……やめろ。まだ終わったわけじゃない」
結局。本日も敗北してしまったのだ。
それも今まで同じように。
あれから奈緒に俺は勉強を教え始めたのだが、純粋な奈緒の性格だ。
教えれば教えるだけ勉強ができるようになっていくのである。
大分学力が向上した奈緒は、俺が適当に考えるような問題は答えられるようになってしまい、結果として俺が対ホーリーイエローに対して考えた作戦は見事に克服されてしまったのであった。
「ねぇ。聖冶ならもっと難しい問題を考えられるでしょう? だったら、そういう問題を出してみたら? そうしたら、ホーリーイエローも答えられないんじゃない?」
「……まぁ、そうだろうな。だが……それはやめておく」
特に驚いたような顔でもなく、真奈は俺を見る。
「……なんだ。何も言わないのか」
「いいえ。アナタならどうせそう言うと思ってから」
そういって真奈は不機嫌そうに俺から顔を反らした。
結局、一度回復しかけた真奈からの信頼は、もろくも崩れ去ってしまったわけである。
真奈の言うとおり、確かにもっと難しい問題を出せば、奈緒は答えられないだろう。でも、俺はそれをしない。
それは俺が悪の首領であると同時に、ホーリーイエロー……横井奈緒の幼馴染、梅木聖治であるからだ。
自分でもなんとも甘ちゃんな考えだとは思うが……今のところ俺はこれ以上悪役になりきれないのである。
こんなこと、悪の組織の親玉としては失格なんだろうが……俺としてはこれだけは譲れないと思っている。
「……まぁ、次の作戦は考えている。安心しろ。世界征服の野望は揺るぐことはない」
「そんなこと言って何も考えていないんでしょうけど……まぁ、期待しないでおくわ」
かといって、真奈の言う通りで、確かに次の作戦といっても……俺は何も考えていないのだ。
何か、また、この状況を劇的に考える展開が訪れないものか――
「だ、大丈夫ですよ! ご主人様ならすぐに良い作戦を思いつきますよね?」
と、そう言ってくれるのはメイド服姿の彩子である。
「あはは……そうだよな。彩子も頑張ってくれてるし、早くいい作戦考えないとな」
「はい! 彩子、ご主人様のお役にたてるようこれからもがんばりますね!」
そう目を輝かせて言うメイドロボットを見ていると、益々申し訳ない気持ちになってくる。
真奈の言う通りで、確かに次の作戦といっても……俺は何も考えていないのだ。
何か、また、この状況を劇的に考える展開が訪れないものか――
「ぼ、坊ちゃまぁぁぁ!」
と、そんな折に不意に片岡の叫びが聞こえてきた。