ボクのヒーロー 1
「……ねぇ。昔、ボクがイジメられてたこと、覚えている?」
隣に座っている奈緒がいきなりそう切り出してきたので、俺は思わず戸惑ってしまった。
「え? お、お前が……イジメられてた?」
「……うん。ボクさぁ、今でもそうだけど、昔っからホントに勉強できなかったでしょ?」
「ま、まぁ……それは、そうだな……」
「それでもさ、ボクとしてはよかったんだ。勉強なんてできなくても。それにボクには勉強のできる聖冶、って幼馴染がいたしね」
嬉しそうに笑う奈緒。
「でも、そんな風にしてたら、勉強ができる女の子達のグループから目をつけられちゃってさ。馬鹿の癖に調子に乗るなー、って。結構酷いこと言われちゃったんだよね」
「……思い出したぞ。あったな。そんなこと」
そうだ。確かにあった。
あれは確か小学生の頃だ。
奈緒は勉強のできる女の子のグループにその奔放さを疎ましく思われ、イジメを受けていたのである。
「うん……じゃ、じゃあさ、そのイジメの話、最後どうなったかも、思い出した?」
そういって奈緒は俺の方に顔を近づけてきた。
女の子に顔を近づけられるという経験はそこまで俺にとって珍しくない。
俺には真奈という許婚がいる。
しかし、幼馴染である奈緒にそういう風な仕草を取られるとどこかドキっとするものがあった。
「え、えっと……ど、どうだったか……と、時が解決してくれたとかじゃないのか?」
すると奈緒は少し残念そうにはぁ、と溜息をつく。
それから、ニヤニヤと微笑みながら俺を見た。
なんだ? 何か、そのイジメの問題の顛末にまさか俺が関係あるって言うんじゃ――
「『勉強なんてできなくたっていい。お前にはお前のいい所があるんだから』……こんな正義の味方みたいなカッコイイセリフを言ったのは誰だったかなぁ?」
そういう奈緒の言葉で俺ははっきりと思い出した。
そして、顔が真っ赤になっていくのを直に感じた。