消沈の機動乙女 3
「奈緒……」
「だから……帰ってよ。もう……大丈夫。明日は学校、行くからさ」
奈緒は俺に背を向ける。
その瞬間、俺は思わず奈緒の肩に手を置いてしまった。
奈緒は驚いて振り向いてくる。
「……すまなかった」
「え……な、なんで謝っているの? ボク達は正義の味方と悪の組織なんだ。だから、戦いの中でお互いが傷付いたり、傷つけたりしたって、別にそんなの……」
奈緒はそう言いながらも、目の端から涙をこぼしている。
奈緒の言っている事はもっともだ。
俺達は互いに敵対する組織に属する存在。
だから、傷つけあうのは当たり前なのである。
では、俺は一体どうして奈緒の家なんかに来たんだ?
その理由は……
「……奈緒。俺は、今はドクターフェルシルじゃない」
「……え?」
考えた末に出た言葉が、それだった。
「俺がお前の家に来た理由は簡単だ。お前が心配だったからなんだ。でも、その心配をしていたのは、ドクターフェルシルって悪の組織の首領なんかじゃない。梅木聖治っていう、お前の幼馴染としての心配なんだ」
俺の言葉に奈緒はただ黙って其れを聞いていた。俺もまっすぐに目をそらさずに奈緒を見る。
「だから……俺、梅木聖治は心配だからお前の家に来ただけなんだよ」
なんともお粗末な言葉だと思ったが、俺は言いきった。
そして、先ほどからずっと奈緒の肩に手を置いたままにしていたのに気付き、慌てて其の手を離した。
奈緒はぼぉっと俺のことを見ていた。俺も今更ながらに恥ずかしくなって奈緒から顔を反らす。
「……ふふっ。そっか。聖治なんだ」
と、不意に奈緒が言葉を発した。
俺は奈緒に顔を向ける。
奈緒は、優しく微笑んでいた。先ほどまでの悲しそうな感じはない。
いつも通りの、元気で天真爛漫な奈緒の表情だった。