消沈の機動乙女 1
奈緒の家は小さい頃何度か行ったことがある。
自分の住んでいる屋敷と違い、ウサギ小屋のような狭さの住宅を見て、これが庶民の生活なのかと驚いたものだ。
俺は、走った。
普段戦闘をサイコカオスに任せているように、悪の組織の首領といえど、俺自身には全く特別な力はない。明晰な頭脳があるだけだ。
なので、体力は普通の高校生男子……よりも劣るくらい。
それでも俺は全力疾走で学校から奈緒の家への道のりを走ったのだった。
そして、既に空がオレンジ色になった頃。
「はぁ……はぁ……ぜぇ……こ、ここだ……」
俺は心臓が口から飛び出そうになるのをなんとか押さえながら奈緒の家のチャイムを鳴らした。
「はーい」
のんびりとした声が聞こえる。聞き覚えがある。奈緒の母親の声だ。
「こんな遅くにどちら様……あら!? 聖冶君じゃないの!?」
と、懐かしい顔を見ると驚く奈緒の母。
「お、お久しぶりです……おばさん」
「そんなに息を切らせて……どうしたの?」
「い、いえ……な、奈緒は……?」
「え? あ、ああ。ごめんなさいね。あの子、昨日から、ちょっと調子が悪いとか言って……もう寝ちゃっているの。どうかしたの?」
調子が悪い、と言う言葉が俺の胸にチクリと突き刺さる。
「あ、あの……少し奈緒と話しをさせてもらいませんか?」
俺は相変らず荒い息の下で奈緒の母親にそう言った。
すると奈緒の母親も俺の様子を悟ってくれたのか、少し悩んだ後、俺を家の中に通してくれた。
「奈緒! 聖冶君が着たわよ!」
と、奈緒の母は、奈緒の部屋の前でそう叫んだ。
すると、部屋のドアが少し開く。
「……せ、聖冶?」
「そうよ。奈緒、調子、まだ悪いの?」
すると、一旦ドアが閉まり、それからしばらくしてゆっくりと奈緒は部屋を出てきた。
「な、奈緒……」
現れた奈緒は、普段のような明るい奈緒ではなかった。
髪もぼさぼさで、目も充血してしまっている。
何より、全体的にしょんぼりとしたオーラが伝わってきた。