決まった意志
「真奈」
授業が終わってすぐ、俺は真奈の席に近寄って行った。
「あら。なにかしら?」
「その……今日は一人で帰ってくれ」
俺がそう切り出すと、真奈はキョトンとした顔をしていたが、すぐに、見透かしたような目で俺を見た。
「へぇ……珍しいわね?」
「ああ……片岡には、適当なことを言って誤魔化してくれないか?」
俺がそういうと、わざとらしく真奈はため息をついた。
「あ~あ~……せっかく悪の首領らしくなったと思ったのに……まーた、正義の味方と馴れ合っちゃうわけね」
皮肉たっぷりの物言いで、真奈はそう言った。
やはり真奈にはわかってしまうようである。
俺は苦々しげに真奈を見る。
「その言い方は……やめろ」
「……本当のことじゃない。そうよね。横井さんは聖冶の大事な『幼馴染』ですものね」
やけに「幼馴染」という言葉を強調するようにして俺にそう言う真奈。
「……なんだよ。その含みのある言い方は」
「特に意味はないわよ。ただ、横井さんが『幼馴染』。で、私が『許婚』だってことをアナタに思い出してもらいたかっただけよ」
「……ふんっ。そんなのお前に言われなくてもわかっている」
しかし、真奈は相当不機嫌そうだった。とりあえず早いところここは退散したほうがいいようである。
「……とにかく、行って来る」
「帰りの道、わかるの?」
「え? あ、ああ。大丈夫だ」
それだけ行って俺は今度こそ教室を出た。
その際、振り向き様に見た真奈の顔は、またしても、どこか寂しそうだ。
無論、俺としても真奈に対しても酷いことをしているという自覚はあったが。