何かが欠けた日
そして、次の日。
俺と真奈は片岡が運転する車でいつものように登校した。片岡にはいつもと同じ場所で下してもらい、俺と真奈はそろって登校する。
しかし、いつもと違うことが一つだけあった。
「来ないわね、あの子」
隣を歩く真奈がぼそりと言った。俺だってそんなことはわかっていた。
いつもうざったいほどに元気に、明るくからんでくる横井奈緒がやってこない。
それは、俺の日常が変わってしまったことを表現するには十分すぎる変化であった。
そして、そのまま教室に入る。
いない。いないのだ。
いつもの奈緒の席に、いつもの明るい奈緒の笑顔がなかった。
奈緒は学校に来ていなかったのである。
「あら、お休みかしら」
わざとらしくそういって真奈は自分の席に向かって言った。
休み? あり得ない。
一日も学校を欠席したことがないことが自慢の奈緒が欠席だなんて、どう考えても普通じゃない。
そうなると原因は……
「俺、か……」
「ええ。そうです」
後ろから聞こえてきた声。俺は振り返る。
そこにいたのは、口調からしてわかっていたが、やはり、一条清夏であった。
「……なんだ。一条」
「横井さん。昨日あの後、私達に一言も口をきいてくれませんでした」
「……それがどうした。俺には関係ない」
「ええ、そうでしょうね。これがアナタのやり方というわけですね。ドクターフェルシル」
一条はけがらわしい物を見るかのような目で俺を見ている。
俺は何も言い返すことができず、ただ、一条をにらみ返した。
「……いいでしょう。ですが、私は違います。横井さんのようではないですからね」
「はっ……そりゃあそうだ。お前は奈緒とは違うよ」
それだけ言って一条は席に戻って行った。
どうやら、単純に俺に嫌みを言いたかっただけらしい……困ったものである。
「……はぁ」
思わずため息をついてしまった。
奈緒は……怒っているのだろうか? それとも悲しんでいるのだろうか。
いずれにせよ、もう顔を合わせることなんてできない。
そもそも、俺達は敵同士なのだ。戦いの中で関係性が壊れるなんてこと、当り前じゃないか。
だから、これでいい。思い悩む必要はない。
それなのに……なぜ、こんなにも辛いのだろうか。
間違ったことはしていないはずなのに、どうして……
そんなことを考えているうちに先生が教室に入ってきた。もちろん、授業が始まっても話など微塵も頭に入ってくることもなかったが。