不安な首領
「な、なんだよ……」
「……私ね、さっきはあんなふうに言っちゃったけど、ホントは祝福しているのよ? アナタがようやくホーリーセイバーとの戦いに一定の成果を出すことができたことに」
「あ、ああ……そ、そうか。ありがとう」
「でも……一つ気になることがあるんだけど……どうしてアナタはあまり嬉しそうじゃないの?」
そう訊かれて俺は思わず真奈の顔を見てしまった。
どうやら、やはりこの妖艶な少女には、それもわかっているといった感じである。
「そ、そんな……う、嬉しいに決まっているだろう。ようやく俺は今までの漫然とした敗北から脱することができたんだからな」
俺は戸惑いながらもなんとか否定する。
「ふーん……ホントにそう思ってる?」
「あ、当たり前だ。何を言っているんだ……全く」
「へぇ……ま、それが本心ならいいんだけど。私も見てたわ。ホーリーイエロー……横井さんが泣きそうになっているところ」
思わずぎくっと俺は反応してしまう。
真奈の鋭い視線が俺の方に向いてくる。
「そ……それがなんだと言うんだ……」
「別に? ただね。今まで信じてきた幼馴染にいきなり、『勉強ができなすぎる!』なんて罵倒されたら、結構辛いんだろうな、って思っただけよ」
そういわれて俺は奈緒の言葉を思い出す。
信じているから、か……
考えてみれば、俺には奈緒しか真奈以外でまともに話す奴がいない。
奈緒はというと、いつでもクラスの人気者だし、俺なんかに構わなくても充分やっていけるはずなのだ。
なのに、奈緒は今までずっと俺に話しかけてきてくれた。俺がどんなに面倒くさがっても、決して離れていかなかった。
それは、奈緒が俺のことを信頼してくれていたからじゃないか?
正義の味方とか悪の組織の首領とか関係なしに、俺という一人の人間を「信じて」くれていたから、今まで付き合ってきたのではないか?
なのに、俺は今日、それを裏切った。裏切ったというか、奈緒を大きく突き放したのだ。
それで、純真な奈緒は悲しさのあまり戦いを放棄してしまった。
そうだ。俺は奈緒との関係の中で最もやってはいけないことをしたのだ。
やはり、これは、踏み切ってはいけない作戦だったのか……
「まぁ、とにかく、そういうことだから、おめでとう、ドクターフェルシル」
そういって真奈は意味ありげに微笑みながら、部屋を出て行った。
残された俺は天井を見上げる。
「……奈緒、大丈夫かなぁ」
自分でも情けないと思える独りごとを言ったあとで、俺はベッドに身体を横にした。