憂鬱な勝利
『おめでとうございます!』
大勢のメイド達が一斉にそう言った。
屋敷に戻ると、リビングでさっそく祝宴が始まった。
目の前にはいつにもしまして豪華な料理が用意されている。
「おめでとうございます! お坊ちゃま!」
「あ、ああ……ありがとう。片岡」
嬉しそうな顔で俺に微笑みかける片岡。
結果としては敗北であったのだが、いつものように、帰ってきた俺を迎えたのは、まるで凱旋ムードの屋敷内だった。
ホーリーセイバーの一人を戦闘不能直前にまで追い込み、挙句、その他の二人を退却までさせた。
これはダークネクロムとホーリーセイバーとの戦いにおいても例を見ない快挙であると片岡は言っていた。
「坊ちゃま……私は信じておりました。いつか坊ちゃまは今までダークネクロムの誰もがやったことのないことをやってくれるのではないかと……それが今日、ようやく叶ったというのは……うぅっ……この片岡五郎。梅木の家に執事として使えることができてこれほどよかったと思ったのは今日が初めてでございます……」
涙さえ浮かべれ俺を手を握り締める片岡。俺は曖昧に微笑むことしかできなかった。
「はぁ……ただ単純にあちらさんが帰ってくれただけなのに、そんなに喜ぶなんてどうかしていわ」
と、そんなテンションの片岡の隣で、冷めた態度で食事を淡々と続けている真奈。
「ま、真奈お嬢様。本日、聖冶坊ちゃまは非常ご検討なさりました。問題は結果ではございません。いかにしてホーリーセイバー共にダメージを与えたか、ということです。坊ちゃまのあの悪逆非道の精神攻撃に、おそらくホーリーイエローの精神状態は壊滅寸前。大きなショックでしばらくはまともに戦うこともできないでしょう」
熱っぽく語る片岡の隣で俺の胸に痛い物が走る。
ショック、か……
イエロー……泣いていた。
イエローの中の人、つまり、奈緒はいつも笑顔で、元気で健康的な女の子だった。
今日の奈緒はヘルメットの下でボロボロと涙を流しているのをモニターでも確認することができた。
俺が……奈緒が泣かした。
そう考えると少しやはり心にチクリと何か刺さるような感覚を受けるのだった。