取り返しのつかないこと
「……え? い、イエロー……帰っちゃったよな?」
戸惑っているのはホーリーセイバーの方も同じようだった。
レッドが呆然としてそう呟くのが聞こえた。
「え、ええ……そうですね……えっと……どうしましょう?」
さすがのブルーも完全に困惑しているらしい。
ネクロム界には、戦うべき両者がお互いに戸惑っているという、よくわからない空気が充満していた。
「あー……仕方ない。今日は私達も帰るか」
「え?」
と、レッドがいきなりとんでもないことを言いだした。
「え……ええ。そうですね。イエローが心配ですからね」
ブルーの方もなぜかそれに賛同しているようであった。
無論、驚くのは俺の方である。
「お、おいおい! お前ら……マジで帰るつもりか?」
「え? だって……イエロー帰っちゃったしなぁ……」
「はい。あんなにも取り乱した様子のイエローは初めてみました。一刻も早く戻り、様子を見てあげないと」
あんなにも取りみだした……確かに、言われてみればそうだ。
奈緒はいつも元気で泣いていることなんて、見たことない……それが俺の奈緒に対するイメージだった。
それなのに、そんなイメージを持っている俺自身が、奈緒を泣かせたのである。
「……あれ。俺、もしかして――」
取り返しのつかないことをしてしまった……そこまで考えてから俺は頭を振った。
そんなことはない、俺は悪の首領として正しいことをしたのだ。
でも、それは悪の首領として正しいことであって……
「俺は、奈緒の幼馴染として……一体どうして俺は――」
「おい! ドクターフェルシル!」
と、サイコカオスの外から声が聞こえてきた。
「え……な、なんだ?」
「じゃあな、私達は戻るから」
「え? ちょ……」
止める間もなく、そのままレッドとブルーは光を放ったかと思うと、そのままその場から消失した。
こうしてネクロム界に残ったのは、俺とサイコカオスだけになったのである。
『やりましたね! ご主人様!」
聞こえてきたのは彩子の元気な声であった。
「え……な、何を?」
『勝ったんです! ご主人様が、ホーリーセイバーを退けたんですよ!』
退けた……俺が?
確かに、目の前に、ホーリーセイバーはいない。
つまり、これは俺が勝ったということになる……なるのか?」
『さぁ! 帰って、みなさんに勝利のご報告をいたしましょう!」
「え……あ、ああ。そうだな」
言われるままに、俺は次元転送ボタンのスイッチを押したのだった。