想像したくないこと 3
「お、おい、一条。いい加減にしろ。変に奈緒を不安にさせるな」
「何を言っているのですか? 本当のことでしょう? 横井さんは純粋だからって、そういう話題を伏せておくのは、卑怯ですよ」
「ひ、卑怯って……お、俺は別に……」
すると一条はズイと俺の方に一歩近寄ってきた。
「梅木さん。つまりはこういうことなのです。正義と悪の戦いにはどちらかの犠牲が付きまとうもの……犠牲が出ることは正義も悪も関係なく悲しいものです……ですから! もうこんな無為な争いはやめにしませんか?」
「……お前……また、そんなことを言って……」
「ええ。何度でも言います。私は争いを好みません。ですから、もう世界征服なんていう下らないことは諦めて下さい」
「……残念だが、それは無理だ。俺は世界征服を諦めるわけには行かない」
俺がそういうと呆れたように大きく溜息をつく一条。
そして、辛辣な顔の奈緒の肩を叩く。
「横井さん……どうやら私達はまだ闘わねばならない運命にあるようです。もしかしたら、私達はいずれ命を落とすようなピンチに陥ることになるかもしれません……でも、そのときは必ず、この私が、アナタを助けますから心配しないで下さいね」
「い、一条さん……」
そういって安心したように一条を見る奈緒。
コイツという奴は……おそらく全て善意で言っているのだろうが、これほど白々しい言葉もない。
奈緒は単純だから、きっと、完全に今ので一条の言葉を信じてしまっただろう。
すると奈緒が俺の方を見てきた。
「聖冶……でも、ボク、聖冶のことも信じてるから」
それと同時にチャイムが鳴り、教師が教室に入ってきた。
一条はニッコリと笑ってそのまま席に戻る。
そして、奈緒もそのまま席に戻っていった。
「……信じているから、って……正義の味方が悪の親玉に言うセリフかよ……」
俺はそのまま席に着くと大きく溜息をつく。
そして、顔を上げると一瞬、真奈がこちらを見ていた。
アイツ……何か用でもあるのか?
しかし、そう思っていた矢先にすぐに真奈は顔を背けてしまった。
全く……一体どうすればいいんだ。
「片岡よ……俺は全くズル賢くも、狡猾にもなれそうにないぞ……」




