想像したくないこと 1
結局、その後、俺と真奈はいつものように片岡の運転する車で松竹高校へと向かった。
しかし、車の中で終始真奈は無言であった。
不機嫌そうな顔をしながら車の外を眺めているだけだ。
俺としても、そんな状態の真奈には話しかけることはできなかった。
そして、いつものように松竹高校から五分の場所に片岡が車を止めると、そそくさと車から出て、俺を置いてそのまま歩いていってしまった。
「……全く、なんだっていうんだ……」
教室について、俺は自分の席で大きく溜息をついた。
「どうしたの? 聖冶」
と、そんな俺に話しかけてくる声。
まるで悩みなどないといった感じの健康的な声だった。
「……奈緒か」
「どうしたの? 元気ないよ?」
心配そうに俺の顔を見る奈緒。
俺はつい、ぼぉっと、前の席の真奈を見る。
「……はっは~ん。真奈ちゃんと喧嘩したね?」
「……そんなところだ」
「ダメだよ? 将来を誓い合った中なんでしょ? だったら、もっと仲良くしなきゃ」
「……そうだな。俺だって、できればそうしたいものだ」
俺はそう言って奈緒を見る。
短く揃えた髪。健康そうな肌。そして、何より人懐っこそうな瞳。
コイツこそ純粋さそのものといった感じである。
「な、何? そ、そんな風に見つめられると照れちゃうよぉ~」
そうわざとらしく照れる奈緒を見て俺は思った。
俺が、コイツを倒すのだ。
なんたってコイツは宿敵ホーリーセイバーの一人、ホーリーイエローなのだ。
そう考えると自然と俺の口から言葉が発せられていた。
「奈緒。お前、俺に倒される時のこと想像できるか?」
「え? 何?」
奈緒は俺に聞き返してきた。しかし、俺は毅然としてもう一度奈緒に尋ねる。
「だから、俺がお前……ホーリーセイバーであるお前を、悪の組織の首領として倒すかもしれないって状況を考えられるかどうか聞いているんだ」
そういうと奈緒は黙ってしまった。そして、なぜか俺から視線を反らし、少し考え込むように天井を見る。
「おい、奈緒。聞いているのか?」
「あ……え、えっとさ。その……そ、そんな話今する必要あるのかなぁ?」
「はぁ? なんだって?」
奈緒は慌てたようにニコニコしながら俺を見た。
「だ、だって。別に今は戦ってないんだから、いいんじゃない? そんな話しなくて」
「お前なぁ……俺は大事な話だと思って――」
「べ、別に大事な話でもなんでもないよ! ね? 他の話しようよ!」
大げさにそう言いながら奈緒は俺にそう捲し立てる。俺はそんな奈緒を見ていて嫌気がさしてしまった。
「……もういい。一人にしてくれ」
「え……聖治?」
「いいから、一人にしてくれよ」
思わず強い口調でそう言ってしまった。奈緒は寂しそうに視線を伏せながら、俺の席から離れて行った。