備えるべき能力
「片岡!」
と、ちょうどその時、屋敷にいきなり大きな声が響く。
「は、はいっ!?」
と、片岡が慌てて振り返ると、そこには明らかに不機嫌そうな顔の真奈が立っていた。
「……私をこんなに待たせるなんて……いい度胸ね」
「あ……も、申し訳ございません! ぼ、坊ちゃまとお話していまして……」
「ふーん……聖冶とお話していたから、私のことを放りっ放しにしていた、と? つまり、聖冶に構っている場合は、私のことなんて放っておいてもいい、ってことね?」
「い、いえ……! そ、そのようなことは……!」
片岡は完全にしどろもどろである。
しかし、これは俺の責任だ。片岡は俺のために時間を割いて、俺の悩みを解決しようとしてくれたのである。
「おい、真奈」
と、俺は立ち上がって真奈を睨む。真奈も不機嫌そうに俺を睨み返してきた。
「……何かしら?」
「片岡は俺ために時間を割いてくれたんだ。悪いのは俺だ。責めるなら俺を責めろ」
「ぼ、坊ちゃま……そのようなことは……」
「いいんだ。片岡。悪かったな。真奈」
しかし、真奈は、さらに不機嫌そうにそのまま屋敷の外へ出て行ってしまった。
「……なんなんだ? あいつは」
「……真奈様も色々とお悩みのようですね」
「悩む? アイツが? 片岡。そんなわけないだろう。アイツは相変らず我がまま放題で、いつも、俺の世界征服にケチをつけるだけだ。そんな奴に、悩みなんてあるわけないだろうが」
しかし、そういう俺を片岡は苦々しげな瞳で見ていた。
「な、なんだ、その目は」
「……坊ちゃま。ずる賢さと狡猾さ、そして、後、もう一つ、悪の組織の……いえ、男として重要な、備えるべき能力があります」
「な、何? なんだ、それは」
「……細かな変化にも気付く、敏感さ、でございます」