老人は斯く語りき 1
「……坊ちゃま」
俺が落ち込んでいると、背後から片岡が声をかけてきた。
「……片岡」
「本当に……お悩みは、ございませんか?」
「……ない、ように見えるか?」
片岡は何も言わずに首を振った。
片岡の瞳は俺のことを心配している優しい色をしていた。
今までずっと、片岡には面倒ばかりかけてきた。
だから、16歳になって初めて世界征服に乗り出した時、ようやく片岡に顔向けが出来る男になれた、と思った。
それなのに、当の片岡は、俺が危険な世界征服をしようとしていることを臨んでいない。世界征服なんて辞めて、普通の生活をしてほしいと思ってる。
俺にとっては今まで俺の成長を微笑ましく見てきてくれた片岡に損な風に思われるのはかなりショックだった。
なぜなら、片岡だってダークネクロムの一員だ。若い頃は爺様の片腕として活躍していたことも聞いている。
それなのに、どうして片岡は俺の世界征服に反対するのか、理解できなかった。
俺はそんな片岡が許せなかった。
だから、世界征服に関しては片岡の助言は一切借りない。そう思って、今までやってきたのである。
「……いや、大丈夫だ。心配はいらない」
俺ははっきりとそう言った。片岡はただ目を瞑って悲しそうに俯いただけであった。
「そうですか……ですが、坊ちゃま、一つだけ申しても宜しいでしょうか?」
「……ああ。お前が勝手に独りごとを呟く程度なら許す」
「ありがとうございます。そうですね……私が思うに……坊ちゃまは真面目すぎるのだと思います」
片岡はそういって困ったように微笑んだ。
真面目すぎる? 俺が?
俺は片岡が何を言いたいかのわからなくて片岡の方へ顔を向けた。
「……どういう意味だ?」
「端的に申し上げれば……坊ちゃまは悪の組織の首領としてはあまりに純粋すぎる、とでも申し上げましょうか」
「……純粋?」
俺が聞き返すと、片岡は優しい笑顔でニッコリと微笑み返した。