若き首領の悩み 3
俺は真奈の問いかけには何も応えられなかった。
そんな俺を見て、真奈は大きく溜息をつく。
「そう。やっぱり、もう聖冶にはホーリーセイバーに勝つ意識がないのね」
「なっ……そ、そんなことはない! お、俺はホーリーセイバーの奴らを倒して、世界征服をしたい! その気持ちは本当だ!」
「でも、そのためにホーリーセイバーに対して何かした打開策を打とうとしていないじゃない。それとも何かしら? 一年も敵として戦ってきたホーリーセイバーといえども、同じ学校の同じクラスの女の子とは、もう戦いたくないわけ?」
「そ、そんなことはない! 俺はホーリーセイバーの正体が誰であろうと全力で倒すつもりだ!」
「本当かしらね? じゃあ、聞くけど、あんなにも仲のいい横井さんのことを、聖冶は本気で悪の首領として、叩きのめそうって思えるわけ?」
そういわれてふと考える。
俺が奈緒を、倒す……全くイメージできないではないか。
あの天真爛漫な無邪気な笑顔を、再起不能にまで追いやるなんて……できるわけがない。
そもそも、今まで俺は奈緒に振り回されることはあれ、奈緒を俺がどうにかする、ってことはなかった。
真奈に言われて初めて、俺はホーリーセイバーとなった奈緒を悪の首領である俺が圧倒している姿が思いつかないことに気付いた。
そのことに気付くと俺はもう何もいえなかった。真奈は冷たい視線で俺を見ていた。
「大体、正義の味方のメンバーとあんなにも仲のいい時点で悪の組織の首領失格よ。もう世界征服もやめて、『幼馴染の』横井さんと仲良くしてればいいんじゃないかしら?」
「お、お前……だ、だから、発言には気をつけろと――」
「言い返したいのなら、少しはダークネクロムの首領、ドクターフェルシルとして格好のつくことをしてから私に何か言うことね」
そういってそのまま真奈は何人かのメイドを引き連れてリビングを出て行ってしまった。
俺は悔しい思いだけが胸に残った。俺だってそれはわかっている。この奇妙な正義と悪の戦いの図式。いかんせん、両者につながりがあるだけに、本気で戦えていないというのか。
そもそも、俺は本気でホーリーセイバーを倒そうとしていないというのか?
そんなことはない。俺は今まで全力でホーリーセイバーを倒そうとしてきたはずだ。
でも、心のどこかで考えていたんじゃないか。相手は顔の知っている同級生の女の子達。その同級生の女の子達を本気で倒すなんてあり得ない、って……
俺は何がなんだかわからなくなって、大きく溜息をつくことしかできなかった。