平穏!悪と正義の日常! 5
「ありがとう。今日も、終わったら連絡するようにするから」
「かしこまりました……坊ちゃま。どうぞ、お気をつけて」
今生の別れとばかりに、泣きそうな顔で俺と真奈を見る片岡に軽く手を振って俺達は歩き出す。
毎度のことながら、片岡の心配性にも困ったものだ。
車を止めたのは松竹高校から徒歩で五分ほどの空き地である。
人通りの少ない場所なので、制服姿の一般的な高校生がベンツから出てくる姿はあまり多くの人には目撃されない。
むしろ、あまり目立たないためにこういう場所を選んで片岡に車を止めさせているのだ。
そこから俺と真奈は歩いて登校するのである。
「……はぁ。こうして二人で歩いていると、それこそ、完全に普通の男子高校生と女子高校生なんでしょうね」
通学路と言える人通りの多い場所に行くまでは、完全に真奈と二人で歩くわけであるが、そんな折、真奈が溜息交じりにそういった。
「まぁ……かつてはダークネクロムの幹部の中には、人間とは思えない姿をしたものもいたようだが……我々は人間に混じるためにそれ相応の姿になっているわけだからな」
「そんな普通の容姿の癖に、世界征服、なんて……滑稽にも程があるわよね」
また真奈は嫌味ったらしくそう言った。
俺は苦々しげに真奈を睨む。
「確かに容姿は人間そのものかもしれんがな、俺もお前も、誇り高きダークネクロムの末裔だ。決して人間と全く同じ生き物ではない」
「中身が重要だって言いたいの? それこそ、なんだか人間らしくてますます可笑しいわね」
「お、お前なぁ……」
「……人間と全く区別がないなら、もう世界征服なんてやめて、普通に暮らせばいいじゃない」
と、真奈は何気なくそう言った。
俺はその発現目を大きく見開いて真奈を見る。
「お、お前……本気で言っているのか?」
少し声が大きくなってしまう。
それはつまり、これまでのホーリーセイバーと俺の戦い、ひいては爺様の代、いや、それ以上昔から続いているダークネクロムとホーリーセイバーとの戦いを否定する言葉だった。
しかし、真奈は特に悪びれる風もなく俺を見つめている。
むしろ、俺の方が間違っているといわんばかりにその瞳は冷たかった。
「冗談よ。言ってみただけ」
「……冗談でも言っていいことと悪いことがある。お前も俺の許婚なら発言に気をつけてくれ」
しかし、真奈は俺の言葉など気にも留めないという風でそのまま歩いていってしまった。
なんだか……ある意味では真奈との関係のほうが、ホーリーセイバーとの戦い以上に、これからどうしていけばいいのかわからないものである。
どうしてこんな関係になってしまったのか……
俺は大きく溜息をついて真奈の後を追った。