平穏!悪と正義の日常! 3
全く……どういうわけか、黒田真奈は、ほとほと可愛げのない許婚になってしまったものである。
俺も早々に朝食を片付け、そのままリビングを出る。
この屋敷においては、どこに行っても何人かのメイド達が付いて来るのはいささか奇妙な感覚であったが、今では大分慣れてしまった。
『いってらっしゃいませ。お坊ちゃま』
玄関を出るときには、大勢のメイドが一列になって俺を見送る。玄関を出ると、すでに黒塗りのベンツが外に待機していた。
「お坊ちゃま。よろしいでしょうか?」
運転席から片岡が顔を出す。
「ああ。行こうか」
俺は片岡に返事をすると車に乗り込んだ。
俺が乗り込むとほぼ同時に、黒塗りのベンツはこれまた何人かのメイドに見送られて出発した。
梅木邸から松竹高校まではおよそ30分である。
その移動距離を、俺と真奈は片岡の運転する車で移動する。
専用の運転手ではなく、執事であるはずの片岡が運転をしているのは、自分以外に俺の命を預けることなどできない、という片岡の強い主張によるものであった。
「はぁ……学校、面倒ね」
と、隣で気だるそうな顔で窓の外を見ていた真奈がそう呟いた。
「ふっ。お前は学校がない日でも、いつでも、面倒臭そうにしているじゃないか」
「ええ。そうよ。私はね、生きていること自体面倒なの。変化のない、繰り返される日々。面倒なことこの上ないじゃない。はぁ……何かとんでもないことが起きてこの日常が引っくり返らないかしら?」
「お、お前……それが、仮にも世界征服を目論む男の許婚のセリフか?」
「ええ。だって、今まで聖治の世界征服への戦いで、何かこの日常に変化が起きた? 何か根底から変わるようなことがあったかしら?」
そういわれてしまうとまた俺は何も言えなくなってしまった。
確かに……今、世界は平和そのものだ。戦争や事件は根絶されたわけではないのものの、多くの人にとっては生き辛い世の中、っていうわけではないだろう。
仮にもその裏で、この俺、梅木聖治、悪の組織ダークネクロムが世界征服を目指して日夜正義の味方と戦いを繰り広げているというのに……である。