平穏!悪と正義の日常! 1
次の日、俺は少し早く目覚めたようだった。
枕もとの時計を見て、それから起き上がる。そして、パジャマからさっそく制服に着替え、鏡の前に立つ。
白いシャツに黒いズボン。そして、黒い上着。なんとも普通の制服姿である。
爺様によって、悪の組織の首領としての英才教育を施された俺であったが、爺様は同時に、庶民的な感覚も知るべきだとして、俺を特別な学校には行かせなかった。
それは小学校の頃からである。
よって、俺が現在通っているのは、公立松竹高校である。
この屋敷にもっとも近い学区にある高校だ。そこに俺と真奈は通っている。
だから、傍目には俺も真奈も普通の高校生。
そんな普通の高校生が、こんな豪壮なお屋敷から出てくるのはちょっと異常な光景なのかもしれない。
「坊ちゃま。お目覚めですか?」
そういって片岡がドアをノックする。
「ああ。起きている」
すると片岡はドアを開いて入ってきた。今日も相変らず紳士らしい身なりは完璧に整っている。
しかし、なぜか不満そうに片岡は顔をしかめた。
「お着替え……ご自分でなさったのですか?」
「あ、ああ。そうだが」
「言ってくだされば……メイドの者にやらせましたのに」
「あ、あのなぁ……いいんだよ。それくらい自分でやらせてくれ。大体、俺は普通の高校生なんだ。爺様だって言っていただろう。庶民の感覚を学ばせるためにそういう普通の高校に行かせているんだ、と」
「……私は、未だに納得できません。坊ちゃまほどの頭脳の持ち主なら、もっとレベルの高い場所で学習もできますし、その方が坊ちゃまのためにもなりますのに……」
「いいんだ。俺は別に爺様に言われたから普通の高校に行っているわけじゃない。そもそも、俺だって、庶民のなんたるかというものを知りたい。普通の高校生が何をして、どのようなことを考えているのかを、な」
俺はもう一度鏡の前で自分の格好を確認してから、片岡のほうにふり返った。
「それに、普通の高校生の生活を知ることは、ホーリーセイバーの生活を知ることにつながるんだからな」
片岡は未だに納得できそうになかったが、俺は構わずそのまま片岡の隣を通って部屋を出た。