憂鬱!若き首領の苦悩! 4
「な、なんのつもりだ……」
「なんのつもり、って……私が幼い頃からこの家に嫁がされたのは、『そういうこと』をするためでしょ? なのに、アナタはいつになったら、私に『そういうこと』をしてくれるのかしら?」
「なっ……ば、馬鹿っ! そ、そういうことというのは……こう、もっと大人になってからだな……」
すると真奈はキョトンとした顔をする。そして、次の瞬間にはぷっと吹き出してしまった。
「な、何が可笑しい!?」
「あ、あははっ……だ、だって……お、大人になってから、って……いつまでも世界征服とか言っている人にそんなこと言われたら……ふふっ、笑っちゃうわ」
そういわれて俺は黙るしかなかった。
確かに、子供染みているかもしれない。だけど、俺はそれを叶えたい。決して夢物語で終わらせたくないのだ。
もしかしたら、俺の祖先、ダークネクロムの初代幹部達もそういう気持ちだったのかもしれない。
「聖治。どうかした?」
「あ、ああ。い、いや……お、俺は……世界征服を……するんだ」
「え? 何? 今さらそんなこと言って――」
「……いいか。誰になんと言われようと、これは俺の意思なんだ。別に誰かに言われたからとか、自分の境遇とかじゃない。だからな。俺は絶対この戦いをやめたりしない」
そうだ。俺はやっぱり世界征服をしたいんだ。
だけど、現在の状況にはうんざりしている。何か、変化がほしい。ホーリーセイバーとの戦いの中での何か変化がほしいのだ……
……いや。来る。きっと来る。
テレビのヒーロー戦隊モノでも、悪の組織と正義の味方の間には必ず番組が中だるみする辺りで劇的な何かが起こるのだ。
だから、諦めない。
それだけが今の俺にできることなのだ。
「……そう。まぁ、せいぜい頑張ってね」
しかし、俺がそう硬く決意したというのに、真奈の表情は冷たいものだった。
「お、おい……なんだ、その態度は。テンションが下がるじゃないか」
「ふんっ。こんなことでテンションが下がるなら世界征服なんてやめることね」
そういって真奈はベッドから立ち上がって、そのまま扉に行ってしまった。
「じゃあね。おやすみ」
「あ、ああ。おやすみ」
扉を出る瞬間、一瞬、真奈の顔が見えた。
その表情は相変わらず冷たく、慈愛を微塵も感じさせないものだった。
だが、なぜか俺にとっては、その表情はどこか楽しそうに見えたのだ。
俺は真奈が出て行ったあと一人で大きく溜息をつく。
「……アイツも、わからないな」
世界征服の仕方、そして、なんとかこのマンネリ化した戦いを打開する方法。
そして、許婚である黒田真奈の態度。
その時、悪の首領である俺にはわからないことだらけなのであった。