突然の辞意表明
「……はぁ」
真奈の部屋を後にした後で俺は廊下を歩きながら大きくため息をついた。
なんだか、真奈に対し愛想を尽かされてしまった……そんな感じなのである。
もちろん、そんな確たる証拠はない。
だけど、なんとなくどこか愛想を尽かされてしまった感じがあるのである。
「……俺、やっぱり鈍感なのかな」
「ええ。そうです。梅木君は鈍感ですね」
と、いきなり背後から声をかけられて、俺は思わず飛び上がりそうになってしまった。
「あ……一条」
振り返った先にいたのは、一条だった。
メイド服姿ではなく、制服姿のままで俺の目の前に現れたのである。
「どうも。先ほどは失礼しました」
「え……あ、ああ。大丈夫か?」
俺がそう訊ねると、一条はキョトンとして、まるで狐につままれたような顔をした。
そして、しばらくすると、なぜか嬉しそうに笑った。
「な……なんだよ?」
先ほどからなんだかよくわからないことばかりである。
真奈にしても一条にしてもどうしてこうわからない表情をするのだろうか。
「いえ……先ほどの会話、失礼ながら盗み聞きさせていただきました」
「……え? 先ほどって」
「アナタと真奈さんの会話ですよ」
ニッコリと邪悪な笑顔を浮かべてそう言う一条。
俺は最初、一条が何を言っているのかわからなかったが、しばらくしてから、なんだか恥ずかしい所を聞かれた気がしてどことなく気分悪くなった。
「……だ、だからなんだ?」
「ですから、その会話を聞いてアナタが鈍感だと思ったのです。ふふっ。かわいそうな真奈さん」
「真奈が……可哀そう?」
「ええ。ああ、それはともかくとして、私をネクロムから辞めさせるおつもりだそうですね」
そう言われて、先ほどそんなことを言ってしまったことを俺は思い出した。
「あ……あれは、だな……」
「いえ、いいのです。私も辞めるつもりでしたから」
しかし、意外なことに一条は特に何事もなかったかのようにそう言った。驚くのは俺の方である。
「え……辞める?」
「ええ。辞めるのです」
一条は今一度、平然とした顔でそう言った。