我儘!悪の首領の許嫁!
「片岡。それくらいにしておきなさい」
と、既に車に乗り込んだ真奈が不機嫌そうにこちらを向く。
「し、しかし、真奈お嬢様……」
「身体の心配よりも、聖治はお腹が減っているそうよ。いいのかしら? 梅木の家に使える有能な執事が、主君を空腹で苛めることになっても?」
そういわれると片岡は顔を真っ青にして俺を見た。
「も、申し訳ございませんでした! い、今すぐお屋敷へ向かいますので……ささ、坊ちゃま、早くお車へ」
片岡はそのまま俺に対してベンツの後部座席の扉を開く。
「あ、ああ……」
いわれるがまま、俺はベンツに乗り込んだ。
「……俺は別に腹は減っていないんだがな」
車が出発した後、隣に座っている真奈にそう囁く。
真奈はニヤリといたずらっぽく、俺に笑顔を向けてくる。
「しょうがないでしょ。ああでも言わなきゃ、片岡の奴、アナタが病院に行く、っていうまで開放しなかったでしょ?」
「……まぁ、そうだが」
「それに、私がお腹空いちゃったのよ」
そういってニッコリと嫌味ったらしく微笑む真奈。
俺は思わず真奈を見つめてしまった。
「何? 何かおかしなこと、言ったかしら?」
まったく悪びれる風もなく真奈は俺にそう返事をした。
本当に、コイツは、どうしてこう可愛げがないというか……やっぱり17年という時間は、俺の許嫁をこんなに変えてしまったようである。
「坊ちゃま! 今日の夕食は何がよろしいでしょうか?」
と、運転しながら片岡が尋ねてくる。
俺は真奈のことをチラと見てから、小さくため息をついて、片岡に応える。
「……真奈の好きなものにしてくれ」