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寂しげな背中

「おい、真奈」


 俺は真奈の部屋の前にいた。


 めったにこの部屋に来ることはない。


 そもそも真奈自身が「部屋に来ないでくれ」と言っているのが原因であり、俺もそのことがあるからあまり来る気にならないのである。


「……はぁ」


 俺は真奈の部屋の前で大きくため息をついた。


 ……よし。そろそろ心を決める時だ。


 俺はそう思いドアをノックしようとした。その時だった。


「……何よ」


「え……うわっ!?」


 俺がドアをノックする前に、勝手に扉が開いた。


 正確には勝手に開いたのではなく、真奈が中から扉を開けたのだった。


「あ……ああ。真奈。だ、大丈夫か?」


 俺がそう訊くと、真奈は不満そうな顔で俺を見る。


 そして、そのまま俺に入れ、と言わんばかりドアを開けた。


「え……入っていいのか?」


「何か用があってきたのでしょう? 早く入りなさい」


 その言葉には既に怒りを感じる事が出来る。俺は言われるままに部屋に入った。


 久しぶりに入る真奈の部屋は、殺風景だった。


 生活に最低限のものしか揃っていない感じである。もっとも俺の部屋とて、大して変わりはないのだが。


「……で、何の用よ」


 ベッドの上に座り、黒いパジャマの真奈は不機嫌そうな顔で俺を見ている。


 良く見ると、真奈の黒い瞳はどこかしら泣きはらしたように赤くなっていた。


「お前……だ、大丈夫か?」


「ええ、大丈夫よ。だから、どうしてこの部屋に来たわけ?」


「そ、そりゃあ、お前が心配だったからだよ」


「心配……ふふっ。へぇ、心配なの?」


 可笑しくて仕方ないという風に真奈は俺を見て笑った。というより嘲笑っている感じだった。


「なっ……そ、そうだ。心配だから来たんだ。なのに、なぜお前は笑うんだ?」


「だって……ふふっ。もう私のことなんてどうでもよくなっちゃったのかなぁ、って思ったから」


 真奈はニヤニヤしながら馬鹿にしたようにそう言った。無論、俺としてもそんな風に言われてしまっては気持ちの良いものではない。


 そもそも、心配してここまでやってきたというのに、真奈の物言いは確実に俺の気分を逆撫でした。


 もっとも、真奈のこんな態度は今に始まったことではないのだが。


「……いや。どうでもいいだなんて……お前なぁ……」


「だって、聖治にはもう一条さんっていう大切なパートナーがいるじゃない。私なん必要ないんじゃないの?」


「あのなぁ……いや。一条はもうネクロムをやめてもらうつもりだ」


 俺がそういうと真奈は目を丸くして俺を見た。どうやら俺の言ったことが予想外だったようである。


 しばらく真奈は俺のことを物珍しい生物でも見るかのように眺めていた。


「……なんだ。その目は」


 俺がそれに耐えかねてそう言うと真奈は唇の端を吊り上げて、意地悪そうに笑った。


「へぇ。さすがに自分が何をしたのかっていう自覚はあるんだ」


「……はぁ? 何をしたって……」


 俺がそう言うと真奈は立ち上がって俺の方に近づいてきた。


 いきなり真奈がこちらへやってきたので、俺としても思わず身構えてしまう。


「な……なんだよ」


「あのねぇ……聖治」


 そして、真奈はジッと俺のことを見る。しばらくその状態のまま、俺と真奈はにらみ合っていた。


 そして、不意に真奈は俺から顔を反らし、窓辺に近寄って言った。


「……もういいわ。一条さんの所に行ってあげなさい」


「え……一条の所に?」


「ええ。そうよ。早く行きなさい」


 真奈は沈んだ声でそう言っていた。まるで俺に対して何かをあきらめてしまったかのような声の調子だった。


 俺はそのさびしげな声に何か声をかけようとした。


 しかし、その背中は無言の圧力があった。俺は自分が悪の首領であることさえも忘れてその背中に対し声をかけることができなかった。


「……ああ。じゃあな」


 俺はそのまま真奈に背中を向けて、そのまま真奈の部屋を後にした。

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