絶望の帰宅
車内では今度は誰も喋らなかった。一条もいつものように俺にべたべたしてこなかった。
俺の隣にいるので、こっそり其の顔を見てみると、まるで生気が抜けてしまったかのように一条の顔はげんなりとしていた。
そのままの状態で俺達は梅木の家の前までやってきた。
「さぁ、着きました」
ドアを開けてくれらのはいつもの片岡だった。俺と彩子はそのまま車の外に出る。
しかし、なぜかそれに続けて一条は車から出てこようとしなかった。
「おい、一条。着いたぞ」
俺がそう言ってもうつろな視線で俺のことを見るだけである。
俺はそれ以上何も言えず、思わず片岡の方を見た。
片岡はニコニコと穏やかな笑顔で俺を見ている。
「坊ちゃま。乙女には一人になりたいときもあるのですよ。先にお屋敷に戻っていてください」
「あ……ああ」
情けないとは思ったが、俺はなにもできないだろうと思ったので、そのまま片岡に言われるままに屋敷へと戻って言った。
屋敷に戻るといつものようにメイド達が出迎える。しかし、メイド達以外は俺を迎えてくれる人物……つまり、真奈の存在はなかった。
「……部屋にいるのかな?」
俺はちらりと先ほどから隣に控えている彩子の方を見る。
彩子は俺のことを見ると、なぜか首を横に振った。
「え……な、なんだよ」
「えっと……御主人様、その……まだ真奈様のお部屋には行かれない方がいいと思います……」
「え? ど、どういうこと?」
彩子は困ったように俺を見ている。
というか、俺が真奈の部屋に行こうとしていたことをわかっていたってわけか。
「その……真奈様も一人になりたい時があるのではないかなぁ、と思いまして……」
「はぁ? 彩子、お前片岡みたいなこと言うなぁ……」
「す、すいません……でも、行かない方がいいと思いますよ?」
苦笑いしながらそういう彩子。
そこまで言われてしまっては、行かない方がいいだろう。
さすがの俺でもそれぐらいはわかるのである。
「……わかった。じゃあ、部屋に戻るから、飯になったら呼んでくれ」
「あ、はい。かしこまりました」
そして、結局、俺は部屋に戻った。