悪の組織の手下とは 3
「……はぁ。この程度ですか。大したこと、ありませんな」
そして、勝負は本当に一瞬だった。
俺がそれを見ている間に終わったのだ。
片岡が瞬時にダークセイバーの懐に入り、鋭いパンチを一撃、腹部に見舞っただけ。
それだけでダークセイバーは地面に倒れてしまった。
よって、立っているのは……片岡である。
そして、地面に倒れ苦しそうにもがいているのが、ダークセイバー……一条である。
「え……お、おい! 一条!」
「坊ちゃま」
俺があまりのことに呆然としていたが、一条が倒れている事に気付き駆け寄ろうとすると、片岡がそれを制止した。
あまりの言葉の強さに俺はその場で立ち止まってしまった。
「もうしばらく、お待ちください」
そう言ってニッコリほほ笑む片岡。其の笑顔はどこか狂気さえ感じさせるものだった。
そして、片岡はそのまま、倒れたままの一条に近づいて行く。
「さぁ、立ってください。勝負は付きました。帰りますよ」
冷酷な言葉の響きでそう言う片岡。
倒れたままの一条は悔しそうに顔を挙げ、片岡を睨みつける。
「なんですか。その顔は。私に勝てると思ったんですかな?」
「……ど、どうして……負けるのです……私は……」
「負けて当たり前でしょう。アナタは、中途半端なんですよ」
中途半端。
片岡のその言葉を聞いて、一条の動きがぴたりと止まってしまった。
「中途……半端……?」
「ええ。アナタは正義の味方なんですか? 悪の組織の一員なんですか?」
「わ、私は……悪の組織の……」
「本当にそう言えるんですか? 胸を張ってはっきりと?」
そう言われて一条は、ふらつく足取りながらもなんとか立ちあがって見せた。
「わ、私は……ちゃんとかつての仲間も倒しました! 完膚なきまでに……だから、今は悪の組織の……」
「でしょうねぇ。そう言うために、わざと必要以上にかつての仲間を傷つけたんですね?」
そう言われて一条は何も言えなくなってしまったようだった。
「アナタは、正義の味方をやめたかっただけ……いえ。逃げたかっただけです。そんな卑怯な人間は悪の組織の人間にはなれません」
そういって片岡は一条の横を通りすぎてそのまま俺と彩子の方に戻ってきた。
「さぁ、坊ちゃま。帰りましょうか」
何事もなかったかのように片岡は上着を着ると運転席に乗り込んだ。
彩子もそのまま後部座席に座る。
さすがにこのままではどうかと思い、俺は立ちつくしたままの一条の下に駆け寄って言った
「お、おい。一条」
見ると、いつのまにか一条の変身は解けており、元の制服姿になっていた。
「大丈夫か?」
俺が訊ねると、一条は目に涙を貯めて俺を見た。
その視線はこれまで俺が見てきた一条のものとは全く違った。
どこまでも悲しそうで、それこそ、暗く深い海のような色をしていた。
「あ……と、とにかく、帰ろう。な?」
俺がそう言うと、何も言わずに一条はそのまま俺の横を通り過ぎた。
そして、フラフラとおぼつかない足取りでそのまま車の中に乗り込んで言った。
「……大丈夫か、アイツ……」
仕方なく、俺もそのまま車の中に入った。