変化の時
「ああ! 聖治様! おかえりなさい!」
サイコカオスから出ると、その前にはスーツから制服に着替え終わった一条の姿があった。
「……ああ。よくやってくれた。ダークセイバー」
「ふふっ。こちらに戻ってきたんですもの。清夏、と呼んでください」
俺の耳元で甘ったるくそう言ってくる一条。
無論、そんな風にされては、少し気が緩みそうになってしまったが、俺はそこをぐっと堪えた。
「……彩子はいるか?」
一条を無視し、俺は彩子の名前を呼ぶ。
「は、はい! 御主人様!」
俺が呼ぶと小柄なメイドがこちらへ走ってきた。
「ああ。いたか。よし、帰ろう」
「え……私もご一緒してよろしいのですか?」
「ああ。当り前だ」
彩子は嬉しそうに顔をほころばせた。
「私は、聖治様と二人きりで帰る方がいいですね」
其れに対して不満そうに頬をふくらませているのは一条だ。
しかし、かといって俺は一度決めたことは変えることはない。
「さぁ、帰るぞ」
彩子の方をもう一度見る。彩子も付いてくる気になってくれたようである。
無論、一条にしても俺の隣を歩きながらそのまま片岡の待っているであろう外へと向かった。
エレベーターで地下から上がり地上に出ると、片岡はいつものように待っていてくれた。
「ああ、坊ちゃま。お疲れ様です」
「あ、ああ。えっと……真奈は?」
「真奈様は……」
片岡は何も言わず黙ってしまった。
つまり、ここにはいないということなのである。
「聖治様? 早く車に乗りましょう?」
横から一条が俺にそう言ってくるが、今はそんな場合ではない。
そうだ……俺は変だった。
真奈も、片岡も、彩子も今まで言わないだけでみんな思っていたのだ。
俺がどこかおかしい、ということを。
「彩子。俺の隣に座ってくれ」
「え……わ、私ですか?」
俺は彩子にそう言ってあえて隣に座らせた。
一条と距離を置くために。
というわけで、車の後部座席には、俺と一条の間に彩子が挟まって乗車することになった。