戦い終わって……
「……お前もだ。失望したぞ、フェルシル」
「え……?」
「お前は……自分の手で世界征服を成し遂げるんじゃなかったのか?」
そう言われて俺は初めて気が付いた。
そうだ。今目の前で傷付いているのは俺、ではなく、ダークセイバー……もとい、元ホーリーセイバーの清夏によって傷つけられたホーリーセイバーではないか。
そこに、悪の首領である俺の関わりは一切ない。
俺は何もしていないじゃないか。
その事実に今更ながらに気付き、俺は愕然としてしまった。
レッドはしばらく俺を睨んでいたが、それから身体を光が包んだかと思うと、そのままイエローを担いだまま消えてしまった。
「さぁ、私達も戻りましょう」
そういうと清夏もスーツに装備してあった次元転送システムを使って、そのままネクロム界から元の世界に戻って行った。
残されたのは間抜けに立ちつくす俺だけである。
「……はぁ」
まったく勝利……そもそも勝利していないのだから実感できるわけもないのだが、とにかくむしろ気落ちした気分のままに、俺はサイコカオスのコックピットに戻る。
『フェルシル様……どうでした?』
コックピットに戻ると、彩子の声が聞こえてきた。
「あ、ああ……ダークセイバー、勝ってたよ」
『……そうですか』
彩子もまったく嬉しそうな声ではなかった。
それは当然だ。サイコカオスを操作している彩子としては、そんな報告を受けても嬉しくないのは決まっているのである。
「……とりあえず、戻ろう」
『……あの、ご主人様』
と、俺が次元転送システムのボタンを押そうとすると、彩子が再び話しかけてきた。
「なんだ、彩子」
『その……私は……もうやめたほうがいいと思います』
「え? やめるって……何を?」
『その……ダークセイバー……いえ……ホーリーブルーを配下にしておくことを……です』
彩子のその言葉は、コックピットにに響く声からも、どこかためらいがちであるということは理解できた。
「……なぜ?」
『それは……私はロボットなので、よくわからないのですが……変、だからです』
「変?」
意外な言葉に俺は驚いた。てっきり、サイコカオスでホーリーセイバーと直接戦いたいから、と言う理由だと思っていた。
しかし、彩子の言葉は違っていたのである。
「変って……何が?」
『えっと……申し上げにくいんですけど……ご主人さまが、です……』
「え? 俺?」
『あ! も、申し訳ございません! 出過ぎたことを言いました!』
慌ててそう謝る彩子。
しかし、俺は別に怒ってはいない。
むしろ、俺が「変」とは一体どういうことなのかが気になった。
「……彩子。その話、元の世界に戻ってから聞いていいか?」
『え……あ……ご主人さまがよろしければ、それで……』
それきり彩子は黙ってしまった。
俺が……変。彩子の言葉はなんだか妙に俺自身の胸に突き刺さっていた。
もしかしたら……いや。自分でも薄々は分かっていたような気がする。
ホーリーブルーの突然の襲来と、手下になると言いだしてきた一条清夏……
「……変、か」
俺は今一度そんなことを呟きながら、ボタンを押す。
モニターが光に包まれ、次元転送が開始されるのであった。