過保護!悪の組織のお世話役!
「そうだよなぁ……ホーリーセイバーさえ倒せば、世界は俺のものなのだというのに……」
ロボットの整備場……つまり、梅木家が所有する秘密の地下室から、エレベータで上がる最中、俺は思わず呟いてしまった。
「何を当たり前のことを言っているのかしら。それが出来ないから苦労しているのではないの?」
「それはそうなんだが……うーん。どうしたものか」
「どうしたものって、どうするもこうするも。戦うしかないでしょ」
「……あのなぁ。俺だってそんなことをわかっているんだよ。問題はどうやったら勝てるのかってことなんだ」
「そんなの、自分で考えることじゃないの?」
簡単に言ってくれるものだ。その自分で考えてもわからないから俺は困っている。
どうしたら……一体どうしたら、勝てるというのだろうか……
「ほら。迎え、来てるわよ」
真奈の言葉を聞いて俺は顔を上げる。エレベーターを降りた先、整備場の外には黒塗りのベンツが止まっていた。
「聖治坊ちゃま!」
ベンツの扉が開くと、その中から初老の男性が大慌てで飛び出してきた。
左目には片眼鏡、綺麗に真っ白な白髪に、黒いスーツを完全に着こなしている。紳士という言葉をそのまま具現化したような男性だった。
しかし、その顔は心配そうに俺に向けられていた。
「あ、ああ……片岡……ご苦労」
「坊ちゃま……お怪我はございませんか? どこか擦りむいたとか、打ち付けたとか……」
心配そうな顔のままで俺に近寄ってくる男性。
片岡五郎。梅木家の執事である。
片岡の先祖はダークネクロムの首領、ドクターフェルシルの右腕とも言われた幹部であったが、ダークネクロムが人間世界に紛れ込んで梅木家となった後は、梅木家の執事として一族代々使えるようになったという。
そして、この片岡も俺の世話役として、俺が小さい頃から梅木家に仕えている。父も母も亡くし、爺様に引き取られた俺を育ててくれたのはこの片岡だった。
しかし、この男、紳士的でいかにも渋い外見なのだが……どうにも俺に対して過保護な所があるのがたまに傷なのだ。
「ああ、ない。大丈夫だ」
「嘘を言わないで下さい! ああ……今すぐ帰って、梅木家の所有している病院で精密検査いたしましょう。骨が折れているかもしれません……もしかしたら内臓にダメージが……」
「大丈夫だ。心配しすぎだ。大体、サイコカオスは対衝撃に対しては万全の措置を取っている。それに、大体俺はダークネクロムの首領だぞ? 仮にも悪の首領が骨折くらいで……」
「何が悪の首領ですか! 坊ちゃまはまだ成人もしていらっしゃらないのですよ! ああ……なぜ、旦那様は年端もいかぬ坊ちゃまにこのような残酷な仕打ちを……!」
仕舞いには涙を浮かべて鼻水を啜る始末。いい年の男の泣いている顔などはあまり見たくないところである。