少し成長した?七日目からの一週間
七日目
前日、自分ひとりでの行動にほんの少しとはいえ自信が持てたことで、行動範囲が少し広がったようです。
無人駅が多い単線の中で、数少ないとある有人駅を中心とした地区まで足を伸ばしました。
住宅地として比較的田畑が少なく、大型ホームセンターやショッピングモールなどが集中していた地域で、地方銀行や周辺地区の中央郵便局、少し離れた場所には町役場もあります。
人の生活の痕跡が多い分、収穫も多い場所のようで、ちらほらと生存者を見かけます。
僕もちょっと頑張っていろんな場所を調べてみると、商店街の佃煮や乾物を売っていたお店のなかに、商品を保存している倉庫が無事残っていました。
しかし、シャッターが歪んで一人では開けるに開けられなさそうです。
歪んだ部分を誰かが押さえていてくれれば、あと少しで持ち上げられそうなのに、と諦めきれずにシャッターを押し上げていると、「手伝います」という涼やかな声。
びっくりしていると、丁度押さえて欲しいところをぎゅっと押してくれる女性の手がありました。
僕は焦ってしまって、早く開けなくちゃって急いでシャッターを押し上げました。
ガラガラと音を立ててすんなり上がるシャッターに、急いでお礼を言おうと振り返ると、その女性はもう既に背中を向けて立ち去るところでした。
「あ、あのっ、あり…ありがとう、ございますっ!」
できるだけ大きな声で、すんなりした背中に声をかけると、その女性は少し足を止めて、顔半分だけ振りかえって少し笑ってくれました。
考えてみたら、大勢の中の一人として炊き出し時に交流を持ったのとは別で、簡単なこととはいえ僕個人に手を差し伸べてもらったのは、初めてのことでした。
その日入手したものは、佃煮と、海苔と、塩。
どうせだからと、商店に入り込んでガス台が生きているのを確認して、お米を炊いておにぎりを作ってみました。
八日目
昨日に引き続き、商店街を探索です。
探すものは食糧と、怪我のときに使える布や、消毒に使えるアルコールや、あとはロープ、ライト、電池など。
それと……武器。
何度かゾンビとの遭遇があって、少しずつ逃げること、怖がらないこと、立ち向かうことを覚えている気がします。
今なら武器を持つ勇気も…と思っているところで、ゆらりと影が揺れたような気がして、驚いて振り向きました。
しかし単なるマネキンです。
ほっとして、正面を向くと、顔に影が掛かりました。
そこには、綺麗なシースルーの赤いブラウスに揺れるプリーツスカートという、モデルさんのような綺麗な格好がいっそ滑稽な、若い女性だったらしきゾンビがいました。
「嫌ああぁぁぁあぁあああぁぁっ!!」
当然、脱兎のごとく走って逃げましたとも。
もしかして、武器を持つ勇気なんて、まだまだでしょうか…。
九日目
商店街をあらかた探ると、商店街を外れたところに図書館だった建物と併設されていたらしき、区民プールがありました。
入り込んで色々見てみると、シャワーが使えます!
まともなお風呂なんて最近入れていませんでしたから、これは本当に嬉しい。
と、思って穿いていた靴の紐を解こうとしゃがんだところにブン!と強い風圧が。
上を向くと、僕が立っていたら直撃していただろう場所を薙ぎ払ったものは、腐った腕でした。
「ちょ、またああぁぁあぁあぁっ!!」
僕の逃げ足は、日に日に鍛えられていると思います……。
十日目
色々調べて回っているうちに商店街から抜けて、どうやらまた作農地に出たようです。
米を乾燥させるための大きな納屋がでんと構えている、農家らしき平屋に出くわしました。
当然のように屋内は荒れていて、見る影もありません。
じゃあ納屋の方は…、と思って調べてみると、ソコソコ荒れてはいるものの、無事なものもいくつか。
真っ先に目に入った無事なものは、転がっているコーラの瓶。
昔おじいちゃんが、ひいおじいちゃんが戦争で捕まりそうになった時、瓶にお酒を入れて布を先端にぎゅうぎゅう詰めた火炎瓶を作って、それを投げることで逃げたと言っていたなんて話を思い出しました。
辺りをごそごそ探って、おうちの中にも行って、既にぼろぼろのカーテンと、倒れて半分流れてしまっている焼酎を見つけて。
コーラ瓶に焼酎を流し込んで、布をぎっちりと瓶の先端に詰め込んで。
確かおじいちゃんは、布が外れてしまうと自分に掛かって火がついてしまう危ないものだから、絶対やるなって言っていた記憶があります。
外れたら大変だから、力を込めてぎゅうぎゅう詰めてみました。
軽く外すように引っ張ってみても、外れそうにないものが出来上がりました。
ちびでとろくて運動神経にぶい僕も、実は結構力持ちという、ちょっと自慢できるところはあって、今回の火炎瓶作りにはとても役に立ちました。
十一日目
昨日見つけた納屋は人の気配もゾンビの気配もなかったので、そのまま泊まりました。
で、納屋の奥の方、こっそりと一斗缶の中にジャガイモが満杯に入っていたので、蒸かして食べたのですが、どうやら僕が扱い間違えたようで、ひどい腹痛を起こしてしまいました……。
種芋用の在庫だったんでしょう、いくらか芽が出て皮もシワがより始めていて、そういった芋は皮を厚く剥いて、芽をきちんと取るべきなのでした。
お芋には、皮と芽に毒性があるんで、それに中ったんだと思います……。
十二日目
前日はおなかを壊したため動けなかったとはいえ、幸いなことに納屋には人の気配もゾンビの気配もありません。
都合がいいのでしばらくねぐらにしようと思い、家の中を調べて回ったところ、多分20代前半くらいでしょうか、若い男性がそれは苦しそうな顔で事切れていました。
そばには寸前まで抱えていたのでしょう、栄養補助食品のスティックビスケットが箱ごとひとつ落ちていました。
多分、これを命綱にしてこの家に篭っていたのでしょうが、この顔……一体なにがあったんでしょう。
この男性の顔を見て、この家に留まる気にはなりません。
今日のうちに荷物整理をして、安全な場所を探しに出ることにしました。
十三日目
雑草がはびこるかなりの広さの平地を進んでいくと、フェンスに突き当たり、その先は滑走路でした。
こんなところに飛行場があったのかと驚きましたが、自衛隊の駐屯地があったことを思い出し、それかと合点がいきました。
すぐ近くに整備場があったので、フェンスを乗り越え…ようと思ったんですが、すごく高くて無理で。
フェンス沿いに越えられそうな場所を探して、フェンスの破れを発見して潜り込み、整備場内をごそごそと探ると、発炎筒っぽいものを見つけました。
説明書がついていたので読んでみると、煙だけじゃなくて、発光と破裂音も組み合わさったもので、救難信号弾、というようです。
もしかしたら使うことがあるかもしれないと思って、バッグの中をパンパンにしながら詰め込みました。
その翌日に、僕の中でとても大きく、大切な出会いがあるだなんて知らないまま、僕はその日、整備場内の片隅で眠りについたのでした。