ドラゴン便より愛をこめて
神秘的な森とそびえ立つ山頂に囲まれた趣のある王国マスカッティには、アイナという名の少女が住んでいた。
アイナは活発で魔力に恵まれており、魔法学校を卒業後、地元の冒険者ギルドに登録して相応の依頼をこなしていた。
ある晩、山を越えた冒険から戻った時、彼女の人生は思いがけない展開を迎えた。薄明かりの中、彼女は奇妙な泥棒の一団に出くわした――青く輝く巨大な卵を取り囲んでいるゴブリンの一団だった。恐怖と好奇心が入り混じった震えが彼女を襲った。これは普通の卵ではないと気づいたのだ。それは明らかに放置されたブルードラゴンの卵だった。
「ブルードラゴンの卵は私が守らなきゃ!」
秘術に長けたアイナはためらわなかった。魔法で眩い光の爆発と強い突風を呼び起こし、ゴブリンたちを追い払って慎重に卵を取り戻した。卵を無事に家まで運んで、数日間アイナは魔力で優しく卵を温め続けて孵化させた。
「……ピーピーピピピピーッ」
家族皆の驚きの中、小さな青い鱗のドラゴンが卵の殻を破って産声を上げ、元気に飛び出してアイナに抱きついてきた。
「……ついに生まれたか!」と父ヨルン。
「本当に可愛いわねー」と母マーサ。
「ドラゴンの赤ちゃんなんて初めて見たよ!」と兄エルド。
「お姉ちゃんの魔力はすごいねー」と妹ミリア。
「今日から、あなたは私たちの大事な家族よ!」
アイナはドラゴンに「ドリー」と名付け、ドリーは家族皆から愛される存在となった。
ドリーはすくすくと育ち、すぐに体が大きくなったため、新しい住処を用意する必要があった。大工のヨルンの指揮で家族総出でドリー専用の小屋を建てた。
ドリーが成長するにつれて、アイナは素晴らしいアイディアを思いついた――ドラゴンを使った配達サービスを始められないかしら? ドリーと私だったら、きっとできるわ!
以心伝心というものがあるのか、言葉を越えてアイナとドリーはお互いを理解していたので、一緒に仕事をするのも可能だと思われたのだ。
ドリーの巨大な体と素早い飛行能力を完璧に活かし、そのサービスは「ドラゴンエクスプレス」と名付けられた。
翼を広げて颯爽と飛行するドリーの姿は地元の希望の象徴にもなり得ると思えた。
この事業は瞬く間に成功し、その新奇さと効率性で地元の人々を魅了した。
「ドラゴンを手懐けるなんてすごいわね」
「馬車よりもずっと早く荷物が届いていいねー」
「賢いドラゴンだわ」
称賛の声が続々と寄せられた。
「ゴォォォォォォォ、ゴォォォォォォォ」
ドリーは得意げになって咆哮した。
「ドリー、そんなに嬉しいんだね。私も嬉しいよ。皆喜んでくれて」
アイナは愛しそうにドリーの背中を撫でた。
ある澄んだ朝、賑やかな市場広場から少し離れた所でいつもの配達をした後、アイナは星型の髪飾りを手に近づいてきた端正な顔立ちの金髪の少年に出会った。
「これはさっき君が落としたものじゃないのか?」
彼は稀少な転移魔法を使って、笑みを浮かべながら空中からアイナの前に現れた。
「……ああ、はい、確かに私の髪飾りです。気づきませんでした。あ、ありがとうございます!」
少年から髪飾りを受け取り、礼を言った。
「……あの、私、魔法学校で聞いたんですけど、転移魔法をお使いになっているってことは、……もしかして、王族の方、王子様ですか?」
「……ああっ、うっかりしてた! 人前で転移魔法を使ってしまった!」
少年は頭を抱えた。
驚きと興味をそそられたアイナは、その少年がマスカッティ王国の第三王子リント王子であることを知った。平民に変装したリントは、王族の生活の制約から逃れるためにしばしば変装して町で息抜きをしていたのだ。また、文章を書くのが好きで、ペンネームを使って時々発表しているエッセイや小説が評判を呼んでいるらしい。
「……僕が王子だということは皆に内緒にしてほしい 」
「……はい、承知致しました。私は誰にも言いません、リント様」
「僕に敬語を使わなくてもいいよ。普通に話してほしい。名前も呼び捨てにしてくれ」
「……でも」
「……頼むから」
「はい……うん、分かったわ、リント」
「……ところで、向こうでじっとしているブルードラゴンて君の?」
リントは置物のようにおとなしくアイナを待っているドリーを指差して言った。
「そうよ、私の大事なドリーよ」
「見事なブルードラゴンだね!」
「私、ドリーに乗って配達サービスの仕事をしているの」
「へえ、それはすごいねー」
アイナからドリーとの出会いから今に至るまでの経緯を聞き、アイナの冒険心とドリーとの絆に魅了され、リントは思わずこの巨大なドラゴンに乗せてほしいと頼んでしまった。
「……うわぁ、本当に気持ちいい! 最高! 空が果てしなく広い! 人間も建物も、ちっぽけに見えるぞ」
「そうでしょう。私はドリーに乗って空から見下ろす景色が大好きなの!」
「この経験をエッセイにも書いてみようかな」
「素敵ね。読んでみたいわ」
雲の上を舞いながら、二人の会話は弾んでいく。
「アイナとドリーは本当に仲がいいんだね」
「そりゃそうよ。私たち相思相愛だもんねー、ドリー?」
「ゴォォォ!」
ドリーが、その通りだと言わんばかりに咆哮する。
「……なんだか妬けるな」
リントは苦笑した。
「……えっ?」
アイナはポッと頬を赤らめた。
それ以降の訪問のたびに、リントは商人の息子を装いながら、アイナの温かい家族に見事に溶け込んでいった。会うたびに会話は長続きし、笑顔は広がり、二人の間に愛情と敬意の織物が紡がれていった。
季節が移るにつれて、彼らの友情も変わってゆき、数えきれないドラゴンに乗った冒険や星空の下での共有した夢で育まれた優しい愛へと花開いた。
冒険を通じて、そしてドリーとの絆だけでなく、アイナとリントは最終的にマスカッティの果てしない地平線の下で本当の気持ちを打ち明けた。
「……アイナ、初めて会った時から君のことが好きだ。……僕と、ぜひ結婚してほしい」
リントはアイナをまっすぐに見つめながら言った。
「……とっても嬉しいわ。私もあなたが好き。……でも、あなたとは世界も身分も違う。私なんて……」
アイナは伏し目がちに言った。
「そんなの関係ない。君は君だ。僕にとって唯一無二の大切な存在だ」
「……リント」
「僕を信じてついてきてほしい」
「……うん」
リントはアイナの涙を指で優しく拭い、彼女を強く抱きしめて口付けを交わした。
リントとアイナの婚約は王室にも国民にも概ね好意的に受け止められ、アイナの杞憂を吹き飛ばした。アイナの卓抜した魔力やドリーを通しての配達サービスで地域に貢献したことが高く評価されたのだ。
アイナの家族はリントの正体を知って、天地がひっくり返るくらい驚いたが、リントの優しく誠実な人柄に触れて好感を持っていたので、最終的には安心してアイナを送り出すことにした。
ドリーを通しての配達サービスは終了したが、アイナにとってもリントにとってもドリーは掛け替えのない存在であり、離れることは考えられず、リントの城の敷地内で飼うことになった。また、ドリーの素早い飛行能力は緊急時等、別の形で活用されることとなった。
「アイナ、君と一緒なら僕はいつでも幸せさ」
「私もよ、リント。あなたじゃなきゃ嫌なの」
「ゴォォォン!」
アイナとリントを乗せて新居に向かって飛行するドリーが嫉妬したかのように咆哮する。
「もちろん、ドリーも一緒よ。ねえ、リント」
「ああ。ドリー、これからもよろしく頼むよ」
ドラゴンは高く舞い上がり、単なる荷物だけでなく、飛行の中で築かれた絆と壮麗な愛の時を超えた物語を運んでいた。マスカッティの青く澄んだ空の上で。




