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第三話


 最後の戦いは、雪の降る夜だった。

 今までで一番大きな怪物が、街に現れた。わたしはいつものように変身して、いつものように、杖を構えた。

 けれど体が重くて、足がうまく動かなかった。

 獣みたいな怪物の大きな爪が、わたしを襲う。背中のリボンがわたしを守る。光が散る。


 戦いながら、あの子のことが頭に浮かんだ。

 あの子は、今どうしているだろう。

 あたらしい学校で、友達はできただろうか。

 誰かに、優しくしてもらえているだろうか。


 怪物がサイレンみたいな音を出しながら、爪を振り回す。

 あと少しのところで、魔法が間に合わなかった。

 胸の奥で、鈍い音がした。

 ああ、と思った。


 それでもわたしは杖を握った。

 体の奥に残っていたものをぜんぶ集めて、光を放つ。

 ふっと持ち上がった怪物の影が、光の中に吸い込まれて消えた。



********



 街に音が戻らないまま静かになる。

 わたしはその場に膝をついた。

 雪が降っていた。

 白い世界にわたしは一人ぼっちだった。


 胸にそっと手を当てる。鼓動が聞こえない。

 代わりに、つめたくてかたいものが、そこにあった。

 ふわっと浮かび上がるような感じがして変身が解けると、わたしの体は、光の粒になってほどけていった。


 あとに残ったのは、一粒の大きな真珠だった。


 真っ白な中に、よく見ると、うっすらと花びらみたいな色がまじっている。

 月の光を受けて、まるくなめらかに、花びらが揺れた。

 魔法少女の最後。

 わたしは、真珠になった。


 あの日、あの子に会いに行かなかった自分より、ずっと、ずっと、きれいな形になった。


 どれくらいそこに留まっていたのか分からない。

 その真珠を拾い上げたのは、中学生くらいの女の子だった。

 雪の降る公園で、彼女はそれを見つけた。

 月明かりに照らされた真珠を、そっと手のひらに乗せる。


「やっと……」


 彼女は小さく、そう呟いた。

 その声は、どこか冷たい感じがした。

 その横顔を、わたしは知っている。


 大きくなった、あの子だった。

 転校したあの子が、この街に戻ってきていた。


「ずっと、探してたんだよ」


 彼女は、真珠から目を離さない。

 その目は、わたしの知っている、少し気が弱そうで、やさしい目とは、少し違っていた。


 公園のはしで、白い猫がじっとこちらを見ている。あの夜の猫と同じ目をしていた。女の子は、真珠を胸元にしまって、歩き出す。


 わたしは何も言えなかった。もう真珠になってしまっていたから。

 ただ、真珠の中で震えていた。






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