表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/38

4-6

 私たちは先程まで宮殿にいたはずなのに、なぜか遥か遠い王国の東南、狼神の森にいる。私はそのことに気づいて隣に寄り添うシーグルドに話しかけた。


「シーグルド、私たちはさっきまで宮殿にいたはず。ここはきっと、狼神の森だわ。どうして突然ここに?」


「……きっと、エハルが俺たちを転移したんだ」


「転移……?」


 聞き慣れない言葉に反応する。シーグルドはそんな私に告げた。


「俺たち王族が使う神聖魔法の一種だよ。対象を違う空間に移すことが出来る」


 それを聞いてある疑問が浮かぶ。そうだとしたらなぜエハルは私たちまで転移したのだろうか。


「エハルが私たちのことも転移させたのは……」


「ああ、恐らくバルバラを殺した後、俺たちのことも殺すためだ」


 オリヴィアとエハルは睨み合う。この戦いの結果によって、これから先のイサーク王国の運命は大きく変わる。

 両者は睨み合う。圧倒的な魔法の力。大地が唸るように音を立てる。その力に怯んで私の足は動かない。シーグルドですら立っているのがやっとのようだった。


「まさかオリヴィアにこんな力が……」


 私の知るオリヴィアは、魔法が苦手だった。実際、彼女が魔法を好んでいた様子は今までない。だから姉のセレスや弟のミハイルよりも高度な魔法は使えなかったし、これからもそうだと思っていた。

 そんな彼女が今、イサーク王国の建国神エハルと渡り合っている。それはあまりにも凄まじく、言葉では決して形容出来ないような光景だった。


「今は、見守るしかない。オリヴィアを信じて」


「ええ」


 シーグルドの言葉に私は頷く。私たちが行ってもきっとオリヴィアの邪魔になるだけだろう。私たちは彼女を静かに見守ることにした。

 エハルはバルバラとしばらく睨み合うと、口元に笑みを浮かべる。


「バルバラ、俺は本当に嬉しいんだ。また君に会えるなんて思わなかったから。君の魂は白く、白く澄み渡っていてあまりにも美しい。君を一目見て、俺は所謂恋に落ちたんだよ」


「御託はよして。私たちはともに、狼神の命運を背負いし者。言葉など必要ない」


 そう言ってオリヴィアは神聖魔法をエハルに向けて放つ。しかし彼は軽々とそれを避けると笑った。


「まだ大地の呪いは使えないんだろう。その前に君を仕留めるよ」


 彼は言葉が終わらないうちにオリヴィアに近づくと、彼女の首に向けて刃のような魔法のエネルギーを振るう。咄嗟に避けた彼女だったが、首には一筋の傷が出来た。

 傷からは赤い血が垂れる。彼女は静かに呼吸をした。


「俺は、この地を侵略した者たちへの復讐のためにこの世に生まれ落ちた。そして君は、そんな俺を殺すために生まれた。俺たちは、生まれた時から結ばれぬ運命。されど、君ははなから、俺のために存在する……こんな素敵なことはない」


「おしゃべりね、エハル。そう、私はあなたを殺すために生まれた。だから、愛など知らなかった。でもオリヴィアとして生まれ変わって知ったわ。愛はこんなにも温かいということを。あなたのそれは、愛ではない」


 オリヴィアがそう言い切ると、エハルは憎しみのこもった目で彼女を見つめる。そして何かの呪文を唱えた。

 呪文を唱えると、オリヴィアが着地している地面に大きな魔法陣が浮かび上がる。大きな魔法が私がいるここまで感じられた。


「そろそろ、さよならしようバルバラ。君は二度俺に殺される。そうすることで俺はまた満たされる」


 そう告げると彼は不敵な笑みを浮かべ、再び呪文を唱えた。呪文を唱えた瞬間、大きな魔法の渦が巻き起こる。あたり一面が何も見えなくなった。

 しばらくして、風が収まると私はオリヴィアの方を見る。彼女は無事だろうか。

 風が収まって少し間が空く。ようやく彼女の姿が見えた時だった。


「オリ、ヴィア……?」


 彼女は仰向けで地面に横たわっている。その姿が私の方からも見えた。私は堪らず声を上げる。


「オリヴィア!!」


 私が彼女に駆け寄ろうとすると、シーグルドに止められる。


「待てリリア! 今行ったところで俺たちは何も出来ない。……それに、何か妙だ」


 シーグルドの言葉に私は地面に横たわるオリヴィアを見つめる。あの子はまだ、死んでいない……? 私はシーグルドの言葉が良い意味であることを信じてその場で待った。


「……」


「バルバラ、君の死は無駄にしないよ。必ず他国の侵略者たちを殲滅してみせるから」


 そう言って彼はオリヴィアに近づくと、彼女の隣に跪く。そして彼女の顔に触れようと彼が手を伸ばした時だった。


「捕まえた」


 オリヴィアはそう言うと、エハルの片腕をしっかりと握り締める。そして呪文を唱え、大きな魔法陣を発動させた。

 その魔法陣には、見覚えがある。確か彼女がヤーフィスの書を手にした時に発動させた魔法陣だ。そうなればあれは……。


「大地の呪い……」


 私はそう呟く。あれはエハルを殺すことが出来る呪術魔法、大地の呪いだ。オリヴィアは完全に大地の呪いを取り込むことに成功したようだった。


「大地の呪い……取り込んだのか」


「無駄話が過ぎたようね。あなたのお陰で取り込むことが出来た」


 血を吐きながらオリヴィアはエハルにそう告げると、彼は大きく目を見開く。そしてついに大地の呪いが発動した。大地に溜まりきった数多の怨念が、次々とエハルに巻き付いて彼を取り込んでいく。オリヴィアはゆっくり立ち上がると、その様子を見守った。

 大地の呪いは諸刃の剣。たとえエハルを殺すことが出来ても、使った本人もその呪いを受ける。しばらくして、オリヴィアもその呪いに取り込まれていった。

 あたりに何も見えなくなる。それから時が経ち、呪いが全てなくなると、そこに2人の姿はなかった。


「2人が、いない……?」


「大地の呪いで消滅した、のか? リリア、探しに行くぞ!」


「ええ! 必ずオリヴィアを連れて帰るわ」


 私たちはエハルとオリヴィアが呪いに呑まれた場所まで走った。オリヴィアが無事かどうかはまだ分からない。彼女が無事であることを強く願って、私たちは彼女がいたところに辿り着いた。

 そこには、彼らの気配はなかった。まさか、本当に呪いで消滅してしまったのだろうか。しかし、彼女は私たちに約束したのだ。必ず戻ると。

 私たちはそこで彼女が、変わらぬ姿で帰ってくるのを待った。強い風の吹く狼神の森。ただ木々が揺れる音があたりに響いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ