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君は俺に問い詰めた。なぜ記憶を奪ったのか、と。俺は正直に言った。君を愛していたからだと。君は本来の目的を取り戻し、俺を殺そうとした。
俺は再び、君に記憶操作の魔法を使うことも出来た。しかし、それはしなかった。君の動きを止めると、俺は君の心臓に向けて腕を伸ばした。君から心臓を抜き取ると、その心臓を喰らう。君はその場に倒れた。
なぜ俺がこうしたのかは、単純だった。君を愛していた反面、恨んでもいたからだ。君は俺を裏切って、人間の男を愛した。俺にはそれが許せなかった。
恨みは俺の中で次第に大きくなっていた。君の心臓を喰らえば、俺は君の神聖魔法を使うことが出来る。それに、君の心臓を喰らい、俺は君と未来永劫生きることが出来る。俺は最終的に、愛ではなく憎しみを選択したのだ。
君の体は死してもやはり腐らなかった。それも突然のはず、君は半神半人。遺体はいつまで経っても綺麗なままだった。だから俺は君の体を、神聖魔法の特殊な炎を使って燃やした。緑色の美しい炎が、君の体を燃やしていく。そうして君は俺の前から完全にいなくなった。
俺はその後、君の夫であるヤーフィスという少年を呼び出した。彼にバルバラ、君を殺したことを告げると、彼は嘆き悲しんだ。そしてその時、君が半神半人であったことも彼に告げた。俺は彼を殺すことも出来たが、それでは面白くない。彼の悲しむ姿がもっと見たかったから。
しかし、俺は後から知った。ヤーフィス、彼はその後、俺への恨みからこの地の呪いと同化したことを。彼はヤーフィスの書という厄介なものを書き上げ、彼の子孫に受け継いだ。ヤーフィスの書には、彼と同化した大地の呪いというものが宿っている。俺を殺すに至る呪術魔法だ。
だが、今は心底どうでもいい。俺に寿命はなかったが、今は眠ることにした。まだ、他国への報復を実行に移す時ではなかったからだ。
俺は自分の子孫であるイサーク王国の王族にバルバラの秘密や俺がしばらく眠ることを告げると、イサーク王国の宮殿の奥深くに眠りについた。俺が報復を開始するのは、全てが揃った時である。
そうして俺は、400年もの間、長い眠りについた。400年後。外で何が起きているのかは分からない。しかし、今が目覚める時だと悟った。
俺はゆっくり目を開ける。俺は何か、硬い木の箱のようなものに入っているようだった。その蓋をゆっくりずらすと、上体を起こした。
我が土地の人間を苦しめた者たち。その者たちへの報復の時が、今ここに来たのだ。
***
私、リリアーヌとシーグルドの結婚式が終わってから数年の時が経った。私たちは今や、2人だけの家族ではない。新たに双子の可愛い娘たちと、1人の可愛い息子がいた。
娘たちの名前は長女の方がセレスティーヌと、次女の方がオリヴィア。2人は現在8歳である。もう1人いる息子の名前はミハイル。彼はまだ4歳だが、魔法の才能は父親似のようだった。
兄弟はとても仲が良かった。長女のセレスティーヌは、私に似てはっきりものをいう性格をしていて、普段は彼女を皆セレスと呼んでいる。彼女は美しい金髪の少女で、正義感が強く、将来が楽しみな子だ。
オリヴィアは、少々気弱な子だった。マイペースで、のんびりした子だ。茶色い髪に、瞳は私と同じ色をしている。少し、私の妹のシャルロットに似ていると思う時がある。
最後に、息子のミハイルは、とても真面目な子だ。彼の髪色はシーグルドと同じ黒色である。才能はシーグルド譲りで、魔法に関しては3人の中で一番素質がある。将来、国王になるのはきっとミハイルだろうと何となく思っている。
今日はみんなで宮殿の裏庭でお茶をしていた。ミハイルは遊ぶのは苦手なようで、いつも私の膝の上にいる。私は裏庭で元気に遊ぶ2人を見つめていると、セレスに声をかけられた。
「お母様も一緒に遊びましょう! ミハイル、あなたったら甘えん坊ね。いつもお母様のお膝にいて」
「セレス、お母様はいいわ。2人で楽しんで」
私がそう言うと、セレスは「分かった!」と元気に返事をして、オリヴィアの元に戻った。
元気に遊ぶ我が子を見ていると、時々私のお母様のことを思い出す。お母様も私たちを見つめている時、こんな気持ちだったのだろうか。出来ることなら、亡き両親にもこの子たちを見せてあげたかったと常々思う。
ヤーフィス家は、今でも私が兼任で当主をしている。あれから私の妹のシャルロットは音楽家になり、そこで出会った人と結婚した。今ではミハイルと同い年の息子がいる。
私の親友、アナことアナスタシアも学校を卒業した後、王族直属部隊に所属している方と結婚した。
私の初恋の人だったエルも、少し前に貴族の方と結婚したらしい。私の周囲の人は皆こうして少しずつ変わっていった。
今でも彼らとの関係はあの頃と変わっていない。シャルロットには時々私から会いに行くし、アナはいつも宮殿へ遊びに来てくれる。エルはあれから一時的にギクシャクしてしまったけれど、今では昔のように話せるようになった。
シーグルドもあれから変わらず、国王として立派に責務を果たしている。私を取り巻く環境は平穏で、全てが満ち足りていた。
「あ、お父様!」
セレスのその言葉に後ろを振り返る。そこには公務を抜け出してきたシーグルドがいた。
セレスとオリヴィアが彼の元に駆け寄っていく。私は彼に微笑んで言った。
「公務は大丈夫なの?」
「ああ、一通りは終わった。それよりも、こいつらと遊びたくてな」
そう言って彼はしゃがんでセレスとオリヴィアの頭に手を乗せる。2人はシーグルドに抱きついた。
「お父様、かくれんぼしましょ! お父様が鬼ね。私とオリヴィアを探して!」
「よーし、5分待ってやる」
シーグルドがそう言うと2人はきゃっきゃ言いながら裏庭をかけて行った。彼は私が座る席と対面にある椅子に座ると私の膝にいるミハイルに言った。
「あいつら元気だな。お前は行かなくていいのか、ミハイル」
「僕は行かない。お母様のお膝がいい」
そう言ってミハイルは私にしがみついた。その様子を見てシーグルドは言った。
「いいな、ミハイルは。俺もお前のお母様に甘やかしてもらいたいわ」
「子どもの前で何言ってるの、あなたは」
私がそう言うと、彼は微笑む。私も彼に釣られて微笑んだ。
私たちは幸せな時を過ごしていた。そう、あの時が来るまでは。




