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3-7

 階段を降りると、そこには地下室があった。地下室はそんなに大きくはない。あたりを見渡すと、机のようなものがある。光の魔法を机に照らすと、その上には一冊の本のような物が置いてあった。私は埃を払って本の表紙を読んだ。


「ヤーフィスの書……?」


 本の表紙にはそう書いてある。私はさっそく本をめくってみた。しかし、1ページ目には文字があるが、2ページ目以降は全て白紙だった。この本は何だろうか。しかし、この本からはなぜか、途轍もないほどの魔力を感じる。私は1ページ目の内容を解読することにした。

 そこには不思議な言葉が書いてあった。


「"ヤーフィスの者のみが、この書を読むに値する"」


 どういう意味だろうか。ヤーフィスの者というのが血縁を表すのなら、私は紛れもなくヤーフィスの者。しかし、どうするべきかは分からない。

 血縁を示せれば、この本を読むことが出来るのだろうか。そういえば、この本の1ページ目には、不思議な余白がある。私はどうしたらこの本を読むことが出来るか考えた。そして、一つの結論に辿り着いた。


(もしかして、血を滴らしたら……)


 血縁関係を示せるものと考えて、それが一番に思いついた。白いページに汚れをつけることに一瞬躊躇ったが、私は意を決していつも護身用に持っている短剣を取り出すと、指の先を傷つける。そして流れてきた血をその本の余白に滴らした。

 私の血が本のページに染みを作る。次の瞬間、滴らした血が突然本に吸い込まれるように消えて無くなると、本が勝手にページをめくり出した。

 私は咄嗟に本から離れると、本は白紙だった2ページ以降に次々と文字を印字していく。その印字される文字は血のような色をしていた。

 しばらくして最後のページまで辿り着くと、本は再び閉じた。私は恐る恐る、印字された2ページ目をめくる。そしてヤーフィスの書という本を時間を忘れて読み進めた。


 しばらくして、本を全て読み終わる。私は記載された全ての事実に驚愕した。

 まず、この本は約400年前、ヤーフィスという青年が書いた本だ。ヤーフィスはイサーク王国建国前の旧王族で、私の祖先だ。今ではヤーフィスは名字だが、この頃名字は存在していないようで、ヤーフィスが彼の名前のようだった。

 彼は大人になり、エハル神に選ばれた英雄の1人、そして狼神の子であるバルバラと結婚した。しかし、彼はこの時、バルバラが狼神の子だとは知らなかったようだ。それでも、彼は彼女を愛し、2人の間には子供もいた。

 ところがエハル神により、バルバラは殺されてしまう。その時、ようやくヤーフィスはバルバラが狼神の子であると知った。ヤーフィスはエハル神に恨みを募らせた。最愛の人を亡くし、彼は次第にその恨みを呪いへと変えていった。

 この本の最後には、こう記してある。"我が子孫よ。エハルはいずれ蘇る。その時に我が家の屈辱を晴らせ。"

 彼の呪いは、この地に残る数々の呪いと同調し、"大地の呪い"と呼ばれる呪術魔法が完成した。大地の呪いは、この本に宿っている。ヤーフィスの者ならば、この本を用いて大地の呪いを使うことが出来る。これを使えば、エハル神を倒すことも夢ではない。しかし、使った者は代償として命を落とす……。

 ヤーフィスの書には以上のことが記してあった。

 これが、ヤーフィス家の真実……。私はこの本を読んでから、しばらく茫然と立ち尽くした。ヤーフィス家は、あまりに大きなものを背負い込んでいる。

 つまり、いつかエハル神が蘇る時、私たちヤーフィス家の者は、命を賭し、大地の呪いという呪術魔法を使って彼を殺す責務がある。それがご先祖様の意思なのだ。

 お母様はこの書のことを知っていたのだろうか。確か私が小さい頃あの神槍を受け取った時に、お母様は私を巻き込みたくないと言っていた。もしかすると、この書を知っていたからこその言葉だったのかも知れない。

 私はしばらくして、本を置き地下室を出ようとした。その時、地下室の出入り口に誰かが現れた。


「……見つけてしまったのね」


 光の魔法で前をかざすと、そこに現れたのはおば様だった。おば様は燭台を右手に持ち、ゆっくり階段を降りて来る。そして私に向かって口を開いた。


「何を探っているのかと思えば、ここを探していたのね。この家の真実を知った気持ちはどう? この家はね、ご先祖のヤーフィス様の怨念から生まれた家よ」


「おば様は知っていたのですか」


「もちろん知っているわ。……あなたのお母様もね。この書はヤーフィス家当主にしか知らされない極秘の書。分かったでしょう? ヤーフィス家当主がどれほどの重荷か」


 私はお母様という言葉に反応する。


「なぜ私のお母様も知っていたのですか?」


「簡単よ。あなたのお母様、ヴィクトリアは当主になるはずだった。それなのに、度胸もなく好きな男の家に逃げたのよ」


「お母様はそんな人じゃありません。勝手に決めつけないでください」


 私はおば様を睨みつける。彼女は面倒そうに言った。


「まあ、いいわ。とにかく、エハル神はいつ目覚めるか分からない。もしかしたら私たちの代かも知れないわね。だからあなたは全て忘れて、王妃になっていいのよ?」


 おば様はせせら笑う。私はおば様を強く見つめて言った。


「王妃になったら、私は兼任でこの家を継ぎます」


「何ですって?」


 おば様が私を睨むように見つめる。私は言葉を続けた。


「これはお母様との約束です。私は王妃となる身。いくら現当主のおば様でも、国王の勅命には敵いません。……今度は決して、譲らない」


 私たちは睨み合う。しばらくして、おば様は私から目を逸らした。


「……勝手になさい。それなら精々やってみるといいわ。あなたのお母様のように逃げ出さないようにね」


「……」


 そう言っておば様は先に地下室を出て行った。私はヤーフィスの書を一瞥すると、地下室を後にした。

 それから数日後。私はシャルロットとお別れをして、護衛のヨセフとともに王家からの馬車に乗った。これから私はシーグルドと一緒に宮殿に住むことになる。じきに婚儀が執り行われ、私は正式に王妃となる。

 それと同時に、ヤーフィス公爵家の当主にもなる。私は二つの重役を担うことになる。その覚悟はすでに出来ていた。

 数時間、ヨセフとともに馬車に揺られていると、王都の宮殿に着く。たくさんの宮殿使用人たちが私に頭を下げる。その間のまっすぐな道を私は歩いて行った。

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