第19話「雷撃vs熔岩」
タケルの意識は、ゆっくりと現実に引き戻される。
このまま眠る事が許されるならどれだけ気持ち良かったのだろうか、と恨み節を頭で考える。
⦅フッ。全身に電流を馬鹿みたいに流されて寝かせてくれないとか、この人どこまで鬼教官なんだよ、それともオークなのか?⦆
そしてまたタケルの頬に、重い平手打ちの感触が。
「ヴッッツ……」
⦅もう何でもいいや……とにかくこのどS女を倒さねーと俺が殺されるって事だけは分かった。これからは真面目に授業を受けよう⦆
「ゲホッゲホッッ! フゥ~死ぬかと思ったぜ」
黒焦げになりながらゆっくりとタケルは立ち上がる。
「当たり前だ。魔気を使う戦いってのはこういう事だからな。“生きるか死ぬか”ただそれだけなんだよ」
「あんた本当に先生向いてないんじゃないか?」
「自分でもそう思うよ」
タケルの精一杯の皮肉もサラッと流された。
「では次は私から行こうか!」
そう言った直後ニーナ先生はタケルに向かって剣先を突きつけるように伸ばした。
「電撃放射!!」
剣先に溜まった電流が一気に放出される。
電流はまるで蛇のようにクネクネとタケルを襲う。
「やばっ……」
間一髪。
真横に転んでその電流を交わすタケル。
「甘いっ!」
転んですぐさま顔をあげると目の前にポニーテールの女が電撃を纏う剣で容赦なく襲いかかってきていた。
すぐさま炎を限界まで纏わせ襲いかかってくる剣に下から掬い上げるように対抗する。
タケルの炎は、また一段と強くメラメラと燃え上がる。
そして衝突。
ブァァァアン!!
態勢が不安定の状態で受けた先生の剣に押しつぶされそうになる。
すぐさま態勢を整えようと左手で重心を整え、素早くニーナ先生の太ももめがけて蹴りを入れる。
「セヤァァ!!」
ズシッ。
あろうことかビクともしない。
「体術はまだまだみたいだなっ!」
「バケモノかよあんた」
「そうでもないさっ!」
ニーナ先生は上から剣で叩き潰すかと思いきや剣を引きタケルの横っ腹に電撃斬りを叩きこんだ。
「ぶっぁぁああああ!!」
タケルの意識が再び遠のいていく。
⦅もう……流石に限界かもしれない⦆
「まだだ」
ビンタと共に再び現実に引き戻される。
「っっ…………」
ニーナ先生はタケルの顎をクイっと持ち上げる。
「誰が寝ていいと言った? 起きろ」
「………ん……て」
タケルの視界には、もうほとんど何も視えていなかった。
何より先生の言っている事すらほとんど聞き取れない。
「そろそろかなっ!」
ニーナ先生はタケルの顎から手を放しタケルの手を無理やり引っ張りあげて立たせる。
急に立たされたタケルは、フラフラと足もおぼつかない様子。
目の焦点もほとんどあっておらず、目が座っていない。
「そんじゃいきますか」
ニーナ先生は剣を後ろに引き、刀身に今までの三倍程強い電流を溜め込む。
バチバチと音を撒き散らしながら剣は通常の太さより倍以上に分厚くなっていく。
タケルは目の前に見える視界は、ぼやけてほとんど見えない、そして聞こえない。
ニーナ先生の刀身が、ぐちゃぐちゃになっていることくらいは分かった。
「まぁこれは賭けだけどな。まぁギリギリ死なない程度に半殺ってやるよ。でも、もし可能性があるなら……」
そう言ってニーナ先生は、ふらふらのタケル目掛けて斬りかかる。
「落ちろ。雷撃!!」
雷撃を纏う剣がタケルに振り落とされた。
⦅お、れ……し、ぬ、の、か、?⦆
ブバァンンンンン!!
激しい衝撃音が鳴り響いた。
そして爆風が二人を呑みこみ、水蒸気染みた熱風が修練所内をモクモクと呑みこんでいく。
ニーナは、すぐさまその異変に気付く。
「やはりこうでもしないと拝見させてくれないって事か。まぁ今のタケルの力量なら当たり前か」
モクモクと熱風が立ち込める修練所内で、現在のお互いの姿は認識できない。
その時、スパンっと熱風を水平に断ち斬る現象が発生する。
「来たか……」
ニーナの全身にも冷や汗が滲み出る。
そして続けざま縦横無尽にジグザグと剣閃が熱風を斬り込み、視界は一気に晴れだす。
時間にして約三十秒ぶりの対面。
なのにどうしてかお互いが今まさに初めて対面するような緊張感に、修練所内の空気が明らかに変わった。
「……倒す。お前を……」
いつもの元気で明るい声の印象はどこにも無く、低めの声で無機質に答えるタケルの姿がそこにあった。
いつもの闘志や覇気は無く、目の奥に映る光は消えていた。
まさに狂気、目の前の獲物を狩るだけに生まれてきた野生動物のような。
だらんと不格好に剣を下にぶら下げながらも剣の刀身が赤白く発光し、ゆっくりとドロドロと動いている。
その剣先の床にはポタッと一滴の白い雫が落ちる。
雫が落ちたその先はジュウと音を立てながら真っ黒に焦げ果てる。
「おいおい。これ以上修練所内を壊すと私にも問題が……ってもうそんな事言っている場合ではないな、うっ!?」
その言葉の瞬間、ニーナ先生の顔面すぐ横を白い閃光が突き抜けた。
少し髪が溶けた嫌な匂いがニーナ先生の鼻を突く。
そして間髪入れずニーナ先生に凄い勢いで向かってくるタケルの斬撃が襲いかかっていく。
「よっ、と!」
後ろに宙返りを決めながら器用に交わすも剣先の熱風でニーナ先生の胸元のシャツが一瞬で溶ける。
いつもは絶対に見せないであろうニーナ先生の白く美しい肌が垣間見える。
「随分と好戦的だねぇ。そんじゃお姉さんも少し本気出しますか。
じゃないと溶かされそうだしな。
タケルお前の今の力《本気》を私に見せて見ろ!」
そう言ってニーナ先生は、天井目掛けて剣を突きたてる。
「《《来い!精霊の力よ》》!!」
そう告げた瞬間、ニーナ先生の天井付近に小規模の雨雲がゴロゴロと轟音を轟かせながら浮かび上がる。
そして突きたてる剣先目掛けてバチコンッツと小規模の落雷が落ちた。
「いやぁ、久しぶりにこの力使うと痺れるねぇ。でもこうでもしないと熔岩に剣ごと溶かされそうだしな!」
落ちた雷は、剣先だけにとどまらずニーナ先生の全身にスパークが散り始める。
バチバチとスパークがニーナ先生の全身を駆け巡るその姿はまさに雷神。
「いくぞ!!」
その直後ニーナ先生の足元にスパークが集まり弾け飛んだ。
だらんと立ち尽くしていたタケル目掛けて目にも止まらぬ速さでジグザグに詰め寄り、斬りかかる。
タケルはあまりのスピードに不意を突かれながらも間一髪で剣戟を防ぐ。
すぐさまタケルも反撃体制に入る。
刀身の発色が一段と強くなる。
「せあぁあああっ!」
「アァァァァアア!」
ぶつかり合う《《雷撃》》と《《熔岩》》。
自然界でも滅多に交わり合う事の無い属性が今、この修練所内で顔を合わせる。
しかし“こんにちは”なんて甘ぬるい挨拶では無く、目と目があった瞬間に挨拶無しで即殴り合うようなもの。
そこからは、剣戟の嵐。
まるで火山雷のように激しく、二人を中心に黒煙は徐々に増していく。
『ヴアァァァアアアッ!!』
決死の形相で斬り合うタケル。
自然と口元に笑みが浮かび上がるニーナ先生。
剣と剣が衝突し合う度に起きる火花と雷は、凄まじい恐怖を感じさせると共に一種の芸術を思わせる程に美しい。
どっちかが剣を引かない限りこの剣戟の嵐は鳴り止む事は無い。
「………っ……」
タケルの表情は少しずつ歪みはじめると共に魔気の発光が弱まっていく。
相反するニーナ先生の魔気はバチバチと全身のスパークがより強まっていく。
ニーナ先生の白シャツはバチバチとあちこちが破けだす程に。
「おらおらおら、どうしたタケルっ!! こんなもんかよ!!」
追い詰めるニーナ先生の表情にも狂気染みたものがあった。
そしてタケルの魔気が弱まっていくと共に剣先が無くなっている、正しく表現すると溶けていた。
ようやくして剣戟の嵐も幕が閉じようとしていた。
再び爆風が修練所内を吹き荒れる。
視界が悪い中、木剣を地面に落とす木音だけが一つ聞こえてくる。
数分後、視界はゆっくりと晴れていく。
見えてきた光景は、あぐらをかいて一人の少年の額に手を当てる女の姿があった。
「さすがにここまでは大人気なかったかな……」
ニーナ先生はタケルの頭をゆっくりと撫でる。
タケルの寝顔は清々しいくらいに気持ちよさそうだった。
⦅タケル……お前は《《本当に何者》》なんだ?⦆
「でも、これで職業体験の態勢も整いそうだな。それにこれからの事についての収穫もあった。問題は何より中間試験だな」
ニーナ先生は、まるで幼児を寝かせつけるような仕草で語りける。
そして入り口の方にチラっと視線を動かす。
「おい! そんな所でいつまでも覗いてないで出て来いよ」




