第16話「ニーナのお願い」
「だから頼むよ~そこをなんとか」
両手を重ね、ニーナは、何度も頭を下げていた。
「《《駄目だ》》」
重くそう答えたのは、誰が見ても頑固者と分かる面構えに、年齢は五十代くらいに見える男だった。
男の髪は、真っ白な白髪がオールバックにまとめられており、無精髭も真っ白。
まるでサンタクロースの叔父さんみたいな風貌のその男は、ニーナを煙たがる様子でシッシッと手を振った。
「昔の馴染みでそこをなんとかさ~ならないかな?」
ニーナは片目を半開きに男の様子を伺う。
「駄目だと言ったら駄目だ。それにワシはもう剣を打たないと決めたんじゃ。
だからこうして農業に勤しんでおるのは、お主も知っているだろうに」
男は深くため息をつく。
「それに職業体験やら、三人の世話をしてやってくれだと?
うちには妻と娘の孫も二人預かってるんじゃ。手に負えんわい」
「分かった、分かったから。じゃあ《《剣の話》》はいいから農業体験だけでもいいから。二週間好きにこき使ってくれて大丈夫だから」
ニーナの必死な申し出に男の眉がピクリと傾いた。
「何故だ? 何故今になってそこまでワシに拘る」
男の顔は、どんどんと不審そうな表情になっていき、キナ臭そうな目でニーナを見つめた。
「えっ!? それは……《《ローズヴェルト》》さんにはまだ言えない……」
「そうか。言えないと来たか……」
一瞬の沈黙。
そして次の瞬間。
「ハッハッハッハッハッハッ」
ローズヴェルトと呼ばれた男は、何が面白おかしかったのか急に高笑いをした。
「ロ、ローズヴェルトさん!?」
ニーナはローズヴェルトが何故笑っているのか未だに理解できない。
「ニーナ……」
ローズヴェルトは、意を決した面持ちでその名を呼んだ。
「お前は、昔から何にも変わっとらんな。ハッハッハッ」
あの頑固親父が何故こんなにも笑うのか、ニーナはやっぱり理解できない。
「いやいや、容姿の話をしとるんじゃないよ。それぇや十年以上も前に比べて随分と逞しく凛々しい顔にはなっておる。でもそんな話をしたいのでは無い」
「どういう……」
「お前は、昔もそういう大事な事は言わなかった。そして剣を《《置いた》》」
「っ……」
ニーナは、浮かない表情を浮かべながら下を向いた。
「別に、それはお前の選んだ選択なのだから誰も攻めやしない。
かく言うワシも剣聖様が亡くなったと聞いて、剣を打つのを辞めた」
ローズヴェルトは、落ち着いたトーンで語りを続ける。
「それに今の教職も昔のお前からすると考えられないが、今のニーナには向いてるんじゃないのか?」
「いや、別に……向いてるとは思わないけど。それなりにやりがいは……あるかな」
今のローズヴェルトの表情からは、微塵も頑固さは無い。
まるで一人の親のように温かい表情であった。
「ちと話がそれすぎたな。まぁワシが言いたいことは“もっと周りを見ろ”ってことだ」
そう言ってローズヴェルトは、農業の準備を終えて「それではまた」と去ろうとしていた。
「………ってちょっと待って、待って! 何いい感じに断ろうとしてるの?」
ローズヴェルトは、いかにもばつの悪そうな顔していた。
「お前は、昔っからこうでもしないとしつこいからだろうがぁ!」
すっかり頑固者の表情に戻っていたローズヴェルトは、せかせかと農場に向かう。
「ちょっと!まだ話は……」
「うるさぁぁい!!」
ローズヴェルトは、もう聞く耳を一切持たない様子。
ニーナは、仕方ないと心に決意を決める。
「はぁ~。実はさぁ~《《アルバ様の娘》》と《《今の剣聖の息子》》がいるんだけどな~」
「えっ!?」
ローズヴェルトは、驚きのあまりきょとんした目で後ろを振り向く。
「お前今、な、なんと?」
「そのままその通りだよ。はぁ~」
ニーナは、何かを諦めきった様子で腰に手を当てもう片方の手は宙を向いていた。




