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第一章:突然できた彼女と、押し切られた結婚

第一章:突然できた彼女と、押し切られた結婚


 噂というものは、どうしてああも早く広まるのだろう。

 酒場で一人静かに飲んでいた俺の耳にも、まるで風のように飛び込んできた。


「聞いたか? Dランクのあいつが、急にレベル50になったらしい」

「バカ言え、Dランクからいきなりそんな飛躍、ありえるわけねえだろ」

「いや、本当らしいぞ。オークの群れを一人で撃退したって話だ」


 その“Dランクのあいつ”というのが、俺だ。

 昨日まで、町で笑いの種になっていた落ちこぼれ冒険者。依頼の失敗回数が多く、昇格試験でも落ち続けていた男が、今日に限っては注目の的になっている。


 いや、俺だって自分でも信じられないんだ。

 ある日突然、体の奥から力があふれ出すような感覚がして、スキルの精度が桁違いに上がった。剣は重さを失ったかのように自在に動き、魔力は制御が効くようになり、敵の動きが手に取るようにわかる。


 その結果が──オークの群れ、討伐。

 続いてドラゴンの幼体も倒した。

 迷宮の深層を単独で踏破した。


 冒険者ギルドの記録係に「依頼無双」なんて二つ名までつけられ、気づけば誰もが俺を目で追うようになった。


 そして、その頃からだった。妙に俺の周囲に現れる女がいた。


 最初は記者かと思った。やたらと質問してきて、俺の戦い方や日常を細かく知りたがる。けれど紙もペンも持っていない。話を聞くばかりで、記録する様子もない。

 それに、俺が「宿に帰る」と言えば当然のようについてきて、次の日も同じテーブルに座っていた。


「……あの、取材なら他のやつにも話を聞いた方がいいんじゃ」

「取材? 違うわよ。私はあなたの彼女になる女」

「は?」

「だから、もう彼女。はい、決定」


 決定? そんな簡単に?

 俺の抗議は、彼女の笑顔に押し流された。強引なのに不思議と嫌な感じがしない。俺の方が面食らっているうちに、同じ部屋に住むようになり、気がつけば周囲から「お前ら夫婦か?」と言われていた。


 いや、正直に言うと──悪い気はしなかった。

 冒険者として成功したから寄ってきた女だろうと疑う気持ちもあったが、彼女は戦いの最中でも平然と俺のそばに立ち、料理も掃除も、笑顔でこなす。

 そして流れるように婚姻届を突きつけられた時、俺は「……まあ、いっか」とサインしてしまったのだ。


 ──人生に、こんな急展開があるなんて思いもしなかった。

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