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第9話 この世界

 「さてソラよ、よく見ておれ。」


 村長がゆらりと動く、

 すると蜃気楼の様に村長の姿が、影が、動きが霞むように見えるのだ。


 [ガツンッ]


 !?、後ろの木から音が聞こえた。

 石だ、河原の石がどこかから飛んで落ちてきた....どこか?ってしまった!?


 「あれ、村長消えたっす!?」


 やられた、一瞬気が逸れた間に隠れられた!

 石を蹴って木にぶつけた音で視線を変えられた!


 「ここじゃよ。」

 「どひゃあ!?」

 

 村長はアイの後ろにいたのだ。


 「幻影術。こんなの序の口じゃぞ?」

 「ひええ...これで序の口っすか?」


 なんてこった、

 老兵衰え知らずもいいところじゃん。


 「一つ一つ上達するまで教えてやる、効率悪かろうが1個ずつ確実に覚えた方がいいじゃろ?」

 「わかったっす、ソラ頑張れっす!」


 どうやら1種類ずつ御教授してもらえる様だ。ありがたい、前世の社会や学校はそんな余裕ある世界じゃなかったから。

 

 だがしかし、あの技はどうやるんだそもそも?


 「ソラよ、アイの腕に触れてみい。」

 [?]

 「ソラ、まずは魔力の流れを感じるっす。」

 

 触れたらいいのか?...おお、なんだこりゃ?

 川の流れの様に何か温かいのが...?


 こうなんだ、アニメで聞いた様なこう、

 血管、血流からポワポワとか力の奔流的なー...。これを自分の体の感覚に向けられないか?

 んんー....。


 「そ...ソラ?」

 「驚いた...そこまで認識出来とるのか。」

 「おわぁ!?ソラから魔力が溢れてるっす!?」

 「理解が早いのぅ...こりゃ教え甲斐があるぞ。」


 凄い、体が芯から暖かくなるような感覚。

 でも暑くない。内側から満たされていく様な、溢れて来る様な、こんな小枝の様な足の先にまで満ちてゆくのを強く感じる。


 「そうじゃ、ゆっくりでいい。体の隅々まで魔力を行き渡らせるのじゃ。」

 

 ...いや、


 なんか...違う。


 「そ...ソラ?」

 

 村長から感じた魔力はこんなのじゃない。


 こんな暖かく明るいのじゃない、

 もっと冷たく静かな、川の流れの様な感覚だった。


 そうだ、感じとられる程に魔力が溢れているんだ。

 もっと内側に閉じ込める...じゃない。

 抑えるのでもない。


 静かに燃やせ。


 今の私はヤゴだろうがトンボだ。

 音も無く獲物を狩る。


 出来て当然なんだ。


 「...なんか、凄いこと起きてるっす?」

 「なんかじゃない、確実に...じゃ。」


ーーーーー


 [ザリッ]


 小さく足音。


 「うーむ、力を入れ過ぎじゃ。肩の力を優しく抜く様に...まぁなんというかこう、川の水の様に...カキカキと。」


 [○...スゥ...]


 「そうじゃ!その調子だ。」


 かれこれ1時間、村長はソラに幻影術を指南中。

 村長張り切ってるっす、何せ村長の技術についていけた人なんてそういる訳じゃないっすから。


 フレ兄も基礎的な動きを学んでたらしいけど、元々の才能と適正じゃなかったからそれほど教わってないらしいっす。


 アタイも護身術を学ぶくらいにたまに色々教わってるっすけど、いつ見ても村長の技術には敵わないと思う。


 いつの時代学者だって何かあった時に戦えるくらいの実力が無きゃ生きていけない。


 

 ...今から50年前まで。

 割と最近...なのかな、他種族との大きな戦争があった。村長はその時代の生き残り、だから何度も聞かされた事がある。


 ある種族が世界の覇権を得る為に動いた。

 それに釣られ、阻止する為に、自国を守る為に、目的は異なれど戦火は瞬く間に広がった。


 いくつもの種族が逃げ、戦い、散った。


 目の前の平和な景色があるにも関わらず、

 地獄と言うべき時代があった。


 いや、その地獄があったからこそこの景色があるのかも...いやいや、そんな訳がない。


 それは現れた。

 

 激しい戦火の中、一部の種族に1人。

 いや、1体?1頭?1柱...それは大袈裟か。

 

 “上位種”と呼ばれる存在が誕生した。


 その力は凄まじく、数多の種族の精鋭達は手を出せず散った。


 彼らは存在そのものが脅威。

 故に上位種達は会合し、大戦を終戦させた後、自らが決めた国の頂点として君臨した。


 皆は納得した。

 彼らの力は表だろうが裏だろうが関係ない、

 絶大な力がある故に人々には平穏が訪れた。


 少なくともこの国...いや違う。

 この国を含めた“領域”の頂点は独裁はしていない。


 誰よりも争いを好まず、

 他人の安寧を願っていたという。


 そんな感じで半世紀、今もなお上位種は存在している。今ある世界は彼らの誕生か、活躍か、それによって立っている。


 しかしアタイにとって一つ、

 問題が生まれた。


 あらゆる生物の構造的な進化が停滞し始めた。


 皮肉にも彼らは争いがあったこそ平和を望む力を持つ存在へと進化を果たした。


 だが一方でその力は新たな争いの火種にもなる。

 力そのものに前も悪も正義もないのだ。


 だから彼らは今を生きる人々が生きていける様その力を使いあらゆる生物を管理しているのだ。


 その結果まだたった50年程度とはいえ新たな上位種も脅威も生まれていない。


 以前のアタイはそれを知って落胆した。


 わかってはいる、でもどこかつまらなさを感じた。

 新たな誕生が許されないかもしれない世界に。



 そんな中アタイは出会った。


 虫でありながら自我と意思を持ち。

 奔放なあの子に。


 ソラにアタイは出会えた。


 まだ出会って1週間程度だけど。

 アタイは嬉しくて仕方がないっす。


 「...あれ、ソラは?」

 「後ろじゃ。」

 「え?」


 [ジャボォッ]


 「コォン!?」


 ソラがデッッカイ魚をとったっ!?

 と言うかいつのまにか...ってもしかして!


 「幻影術ガ一、“霞”を習得出来た様じゃな。こりゃ見事な“レイリュウシズクマス”、滅多にお目にかかれんというのに。」


 レイリュウヤマメが遠い海で成長し川に戻ってきた魚。ここまで戻って来るなんてレアだ。


 「さて、わしゃ一度村に戻るぞ。こんな大きいやつを捌くにゃ道具を持ってこんとな。それに...おっとこれは内緒じゃ。」

 「?」

 「そもそも森荒らしの血抜きは明日以降出ないと終わらんじゃろ。アイよ、泊まる準備とかは持って来ておらんじゃろ?」

 「はいっす...。」

 「なら森荒らしの見張りを頼むぞ。すぐに戻って来るぞー!」


 そう言って村長は一度村に戻って行った。



 「さてソラ、村長戻って来るまでちょっとおやつ食べないっすか?これ、お気に入りの干し肉っす。」

 [○]


 [ガサッ]


 「!」


 人の気配...?


 「あれ、隊長ー!森荒らし討伐されてますよ!」

 「なんと...ん?」

 「?」

 「もしや...すまない、君達は?」

 「...近くの村の者っす。」

 [コクリコクリ]

 「おわ!?...虫の魔物?君はテイマーか?」

 「...そうっす。」

 「もしかしてアンタらが森荒らしを!?」

 「はいっす。」

 

 男達4人。

 どうやら冒険者の様だ。


 「...。」

 「どうしたっすか?」

 「提案がある。」

 「?」


 男達は剣を抜く。


 「森荒らしを寄越せ、断ればその首は無いと思え。」

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