第5話 変わり者
池から離れた川にて、
[ジャボォ]
オラあああ!!!
よくわからない魚ゲット!
[ヤマメ]
[レイリュウヤマメ]
ついさっきの事、[ご飯探索]にこんな機能があることに気づいた。私の知る生物に近いのならその名前で表記、そしてこの世界での種類名だ。
レイリュウヤマメ、前世でヤマメは食べたことなかった。
ああ齧り付いてるからご飯探索の記録に登録されたから周囲にまだいる!
[ガブリュ]
…!!!
な、なんてことだ。美味すぎる!
脂が乗っている、旨みが広がる!
ワタのほろ苦さがクセになる!
淡白な白身が脂との美味さを引き立てる!!
ああ幸せ、塩焼きとか試したいんですけどお!
というわけで火おこしが出来ないかをやってみる。
木を擦るのかって?
魔法を覚えるのかって?
違うんだな。
河原の石にきっと…あった!
じゃじゃーん、チャート!
それとこの辺の石に鉄が混じっているなら、これをぶつける!
出た、火花だ!
火打石として使われる石の一種だからね。
あとは燃えやすそうなものが…おお、向こうに結構乾燥した木片を見つけたぞ!
風もあまり吹いていないから火種が飛んで火事になる心配は薄い。
念の為に石で囲んで、ヤマメを枝に刺して、
あとは、…塩ないわ。
仕方ない、塩は諦めるとしよう。
火打石で木片に着火!
調味料になりそうなものはその内探すとしましょう。
一旦呼吸のために水に浸かりますか。
ああ、楽しみだなぁ。
「やや、火の匂いっす!」
ん?
「んなぁ!?火がついてるっす!?」
現れたのは小麦色の肌と明るい白金髪。
そしてなんと狐の耳っぽいのと狐の尻尾。
まさかの狐娘!?
加えて眼鏡まで!!
誰だテメェ!?
「…あれ。よく見たらレイリュウヤマメが焼かれてるっす。誰かいたんすかねぇ?」
まずいまずいなんでこんな時に人間来てるんだよ!?
私のヤマメがああ。
「…でも妙っす、人がいた気配なんてなかったのに。」
(キシャーッ)
「ぅえ!?」
岩の上で適当な威嚇をついやっちゃった私。
「や...ヤーグ?」
変な所で探しものを見つけちゃったアタイ。
ーーーーー
やばばば逃げないとじゃなくてヤマメは渡さんぞゴルァ!!
「ほああ、見つけたっす...ってあれ 。まさか...これ焼いてるのアンタっすか!?」
ん?
もしかして私が焼いてるのかって言ってるのかな。仕草と反応でなんかわかるぞ。
んー...この世界の仕草ってどうなんだろう、
とりあえず首を縦に振るか。
[コクッ、コクッ]
「やっぱりっすか...てか、どぅえええ!?アタイの言ってる事わかるんすかあ!!?」
え?...あ!?
「えーと、なにかなにか...あった紙とペン!」
ん!?
羽ペンで○と×を紙に書いて...。
「これ、食べれるっすか!?」
みかんらしき果物を食べる様な仕草。
私は×に前足をさす。
「じゃ、じゃあこれは!?」
あ、ザリガニ!!
○をさす。
「えーとこれは!?」
カエルだ!
○だ。
「...これはどうっす!?」
葉っぱは食べないよ。
×です。
「ほわああああ!!初めてっす!○と×もわかるなんて!!」
なんて変わり者だ、いやこれが天才か。
私との簡易的な意思疎通方法を確立したぞ。
「...ああ、でも村のみんなには言わない方がいいっすよねこれ?やばそうな気がするっす。」
紙にいっぱい人を描く、
そこに私を描く。私を紹介するか私の存在を伝えるか...。彼女の雰囲気からして言わない方がいいと言っているんだろう。
当然だ、秘密でお願いする。
「みんなに言った方がいいっすか?」
[×]
「そりゃあそうっすよね...。」
あ、呼吸が。
[ジャボン]
「え、ああ、ヤーグはお尻で鰓呼吸っすね。地上は短時間だけなら活動可能なんすね。」
[パチパチッ]
「おおう、そういえばどうやって火を起こしたんすか。魔法でも使えるのっすか?」
と紙にそれっぽい事を。
私はさっき使ったチャートと石を見せる。
「コォン!?」
え、何その驚き方。
「また驚いちゃったっす。火打石まで理解しているんすね...人間並みじゃないっすか。」
すると少女は何かを閃く。
何かを描き始めた。
「あの、これはあの池で食べていいやつと悪いやつなんす。」
なんか簡易的な生き物の絵が○と×の欄で分けられて描いてある。
カエルは×、
角の生えてたドジョウは○、
ザリガニは...なんか恨みでも込めたかの様に◎になってんだけど。
...もしかして食べていいやつと悪いやつ?
私はザリガニを食べてカエルは見てからさっきの×の書かれた紙に前足をさす。
「素晴らしいっす!!!知能がある魔物はいるっすけど虫型では初めてっす!あ、そうだ!」
彼女は何かを書く。
この世界の文字か?
「アタイはアイって言うっす!」
自分に指をさしている。
名前かな。
「これがア、これがイでアイっす。よろしくお願いするっす…えーと、そっちは名前がないんすね。」
...私の名前は”アイ“って言ってるのか?
意外と可愛い名前っていうか異世界でも前世でもある様な名前だった。
しかし変な名前をつけられるのは嫌だしと、
[ヒョイッ]
空に指をさす。
あ、足だった。
「んあ?上…くも…太陽…空…。」
[○]
「ん!?そら?」
[○]
「…!!その名前がいいんすか?」
[○][コクリ]
彼女は驚きと幸せでいっぱいな表情を見せた。
どうやら彼女は味方になってくれるらしい。
現状意思疎通は頷きや○×だが出来るのと出来ないじゃ大違いだ。
「よ、よろしくっす、ソラ!」
4日ぶりに私の名前を呼んでくれた人。
初めての“カゴの外“の出会い。
[パチパチッ]
「おお!?気がつけばいい感じに火が通ってるっす。どあっち。」
あ、そういや熱くてすぐに食えそうにない。
「…これじゃすぐに食べれないっすね。よし、そりゃ!」
え!?
この陣と冷風は…まさか魔法!!?
「どうぞっす!これならソラでも食べられるっす!」
なんていい子だ!
ありがとう、そしていただきます!
[ハムッ]
うっま…!!!!
「そ、ソラが固まったと思ったらもう食べ終わったっす。まぁ当然っすよね、レイリュウヤマメは塩がなくても十分うまいっすから。」
[ヒョイッ]
「え、アタイにっすか!?」
[コクリ]
「…!!!」
うわあ、泣いちゃった!?
「う、嬉しいっす!グスッ、いただきますっす!!」
なんかよくわからないがよっぽど嬉しいらしい。
まぁいいか。
異世界転生4日目。
良き出会いに乾杯!焼き魚だけど。