第4話 ザリガニと死にかける
朝ごはんを食べている時だった、
[ズシン、ズシン]
地面から水中へ伝わる振動、
重い音が近づいてくる。
この音は一体...?
[ドボォンッ]
大きなものが水面から泡を立て入ってくる。
泡が消えると同時にそれは姿を見せる。
皮素材でできた防水靴の様な物...いや、それそのものだ。見た事ある形状とそれを作れる技術。
間違いない、足だ。
人間の足だ。
こっちの世界の人間だ。
それも複数人、やばい...逃げないと。
人間の足が天変地異の隕石の如くあちこちに現れる。
土煙に紛れ、慌てて避け進む。
ここは比較的浅瀬だ、こんな大きさのヤゴが見つかったらどうなるかわからない。
それに今のところ同種と会っていない。
彼らにとって見た事ない生物だと最悪殺されるだの実験うんぬんになりかねない。
何より異世界だ。
こっちの人間がどれだけ強いのかすら知らない。
なら逃げる。
それが一番だ。
[ヴォンッ]
うげ、網だ!?
それに捕まえてるのは....ああ!?ザリガニ!!
それは今日見つけた良い食材だってのに畜生!!
しかし今はそんな場合じゃない。
...ってかザリガニ多くね?気色悪っ。
捕まえてどうしてるんだろ、水面からこっそり顔出して...、うわ、カゴに乱雑にポイポイと入れてらっしゃる。どう見ても食う為に集めてると思えない。向こうにいるおっさんはカゴに入りきらない分を足で踏み潰してる。どうやら外来種や厄介者の類いらしい。...そんなにいっぱいいるなら欲しいのだけどな。
…あそこ端っこ、池に逃げようとしてるザリガニがいるな。
もーらい。
[パシュッ]
「!!…あちゃぁ、池に逃げちゃったっすかぁ?どこに行ったっす…あれ。」
ハサミだけが落ちているのを見つけた。
付近は土煙が立っていたが...。
「…自切じゃない。これはなにっす?」
「おーいアイー、そっちはどうだー?」
「ん?こっちもメタルアームがいっぱいっすー!」
よしよし美味かった。
このまま逃げ続けるに限る...ん?
ここは...池の深い所に向かってるのか?
[気配察知:取得]
...!!?
まだ遠いのはわかる、でもなんだ?
池の奥から異様な気配を感じる。
まだ行ってはならない、行けば死ぬ。
仕方ない、一旦この池から離れて元の拠点に移動するとしよう。我が身が可愛いからね。
「どうだ、そっちは?」
なんでそっちにいるのさ。
最悪だ出口塞がれた。
[ドボォンッ]
うわっと!?
[ボスッ]
あ?
え?ここどこ?
[ギチギチ]
え、なにここ?ザリガニだらけじゃん。
なんかハサミで挟まれてるけどレベルアップしたせいで痛くも痒くもない。
[ギチギチギチギチ]
辺り一面埋め尽くす赤い甲殻。
よく見たらカゴの中。
やらかした、これ罠の中じゃん。
早く逃げねば…なんてのも手遅れでした。
[せーの!]
[ズゴォン!]
超最悪だ、引き上げタイミングだったようだ。
動こうにも暴れるザリガニが邪魔で思うように動けない。
カゴの中で激しく揺れる水、
ギチギチなザリガニ、
無様に転がる私。
[バシャアッ]
速攻で水揚げ。
ザリガニに埋もれるヤゴ。
[グォン]
カゴが揺れる、ザリガニも揺れる。
[せーの!]
ヤゴになったせいか、異世界だからか、
よくわからない言語の掛け声と共にさらにカゴが動く。
そしてまずい、息苦しくなってきた。
ヤゴはエラ呼吸だ、このままじゃ死ぬ。
でも身動きが取れない。
ザリガニはギチギチと動いたまま。
鋭い足が気持ち悪く動いている。
酸欠で動かなくなってくる自分が気色悪い。
意識が薄れてゆく。
思考ができない。
また、カゴの中で…。
死んでたまるかぼけええええええええええええーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!
[起死回生:取得]
私は目についたザリガニを食い、
そのエネルギーをそのまま全部パワーに変換したのかというくらいの力で硬い網を破り飛び出した。
ヒャッハー脱獄ぅ!!!
「おい、何か逃げたぞ!!」
私は必死に逃げ延び、気がつけば人間はどこかに行った。
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[レベル22→23にアップ。]
いやぁ疲れた。
まだ昼にもなってないのに。
人間達はザリガニ持ってどこかに行った。
まぁこの池広いし奥がまだ川と繋がっててさらに上流もあるっぽい。そういえば池に来る途中分かれ道というか川の合流地点があったからあの川降ればどの道元の拠点に着くルートだろう。
それはそうと、
この池...何がいるんだ?
一番深い所に得体の知れない気配。
大抵こういうのはナマズか亀か、まぁそんなのはどうでもいい。あたしゃもう死ぬのはごめんだよ。
それにしても地上での活動かぁ。
ヤゴはケツでエラ呼吸するからワンチャン半身浴ならいける説...はなんか怖いな。
いやでも異世界生物の肉体だから案外なんとか、
[地上活動1]
出来たわ。
10分くらいなら平気になった。
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...あった、やっぱりっす。
あのカゴから飛び出したのはドラゴフライの途中、ヤーグっす。
図鑑にはあんな大きな個体は載っていない。
大昔は大きな種類がいたって聞くっすが先祖返りによるものなのか突然変異、またはそれによる新種が誕生したのか。
いずれにせよアタイは無視出来ないっす。
将来学者になりたいアタイは興味が湧いて仕方がないっす。
アタイだって村の中じゃ一番“魔法”が使えるんす。よし、もう少ししたらもう一度行ってみるっす!