第2話 虫カゴの外の私
ギンヤンマのヤゴ転生してから3日。
思いの外すぐにこの体に慣れた。
ほら見てよGの如く足をホイホイパタパタと…って誰もいないんだ。
前世じゃこんなみっともない姿晒せない、故に楽しい。
さて、ここ最近だが。
私を獲物とする生物が来ないか恐れながら拠点に引き篭もりながらも餌を食う。意外とちっさい生物が流れ着いて来るので現状飢餓に困っていないのだ。
でもそろそろメダカとかオタマジャクシを狙いたい。
3日前まで人間だったくせにそんなの食べたいとかヤベェな私。
実際成長のためには相応の栄養がなければならない。
レベルも1のままなのでそこらの餌じゃ経験値とかそういうのは手に入らないらしい。
いやぁでも異世界でしょ?
普通の生き物が所謂魔物って呼ばれてたりするんでしょ?
嫌だなぁ…そう思っていても仕方がないのはわかっている。
やらなきゃやられる。
そういうわけで私ソラは拠点の外で獲物を狙ってみようと思います。
オタマジャクシを狙うなら田んぼや流れの緩やかな場所にいるはずだ。
メダカは案外そこらにいるかもしれないが多分追いつけないからオタマジャクシだな。
なら流れの緩やかな部分を移動しながら池を目指そう。
繋がっている場所があれば良いのだけど…?
私は拠点の外へ出る。
すると全身に川の流れの力が伝わってくる。
気を抜けば一気に流される、足に、全身に力をこめろ!
「よし、いける!」
大抵上流には綺麗な水と池とかがある、
そこならきっと…いる!
[遊泳1:取得]
[水中歩行1:取得]
こ、これは!?体が軽いっていうか、動きやすくなったぞ!
よーしこのまま腹ペコりんになっちゃう前に狩場へ!!!
…あ、ミミズっぽいのみっけ。ぱくっ!
やっぱ飢えに困ることはまだ無さそうだ。
いざ経験値!
ーーーーー
予想通りだ。
上流にはとても大きな湖があった。
琵琶湖と比べたら遥かに小さいけど。
ってかすっっごい綺麗!
うわああ…前世でも見たかったなぁ。
いやいや。
感動している場合じゃない、ここは異世界。私の種族がギンヤンマとなっていたからって他はそうでも無かったりするかもしれないのだぞ!?
魔境だ。
ここを楽園にするには私が強くなるしかないのだ。
[シュルンッ]
今のは!?
あの細くて小さい体は間違いない、ドジョウだ!
いやでも追いつけ…あれ、
[忍足:取得]
気づかれてない…?
私はヤモリの如くゆっくり気配を消して、
ゆっくり顎を開き、
ゆっくり近づき、
「ガブッ!!!」
下顎が大きく伸び、獲物は私の口へ。
…なんだ、このドジョウ見たことないぞ?よく見たら角生えてるし、これもしかして魔物…?少なくともこんなヤツ見た事ない。
[レベルが2に上がりました。]
え、誰?
いや、今はいい。
やっぱりこれ魔物だよね経験値的なのが手に入ったからレベルアップしたのだろう。
ありゃ?
もうドジョウ食べきっちゃった。
なんの味もしなかったな。
しかも考えてみれば寄生虫が怖いんだけど。
[寄生虫無効耐性:取得]
[美食の味覚:取得]
都合良く手に入りましたー。
やっぱなんか持ってたなあのドジョウ。
まぁおかげで耐性ついたんでもう心配はないでしょう。
[モソッ]
はっ、今のは...。
私は物陰に行く。
手に入ったスキルのせいかどうもあの脂(?)ののったでっぷりとした腹に目が行く。
間違いない...オタマジャクシだ!!
焦るな...近づいてきたところを...。
...、
遠ざかっていったな。
「待ちやがれオタマ野郎ぁぁーーー!!!」
高速忍足からの伸びる強靭な顎が獲物を捉える!!
「ガブリッ!!」
瞬間、
人間の舌では感じる筈のない旨味が広がる...!
なんて美味い...幸せだ。
味覚スキルいいなコレ。
...しかし不思議だ。
しばらく空腹になる感じはないのにまだ食える。
よし、このまま他のオタマも狙いますかー!
と、私は見つけるたびにガブリガブリとオタマを食い荒らす。
繰り返すうちにどこか私には楽しさというか、解放感に浸り酔いしれていた。
それが恐怖の味も生み出すなんて。
[ドヴォンッ]
重厚感ある水へ飛び込む音、水に伝わり揺れる振動、殺気と怒りに満ちた眼光。
その茶緑の皮膚はテカテカで独特の見た目。
親だ、なんてこった、カエルだ。
それもなんて大きさだ、このオタマジャクシ達はこんなにでっかくなるのか。
子供を貪られて怒り心頭らしい。
一体なんでって私が犯ヤゴだからね。
犯人はヤゴ!サーセンした。
さてさてどう逃げるか。
カエルの舌の射程範囲に入れば即食われるだろう。
1秒にも満たない刹那にバシュッ、パクッて。
どうする、水中だけど煙幕とかそういうのは...待て、この池の底の土って。
[煙幕:取得]
また都合良く今使えそうなのが。
私は泥を舞い上げる、カエルは驚いたのか私のいたところに近づく。
どうやら見失ったらしい、今のうちに逃げるべきか…あ!?
[モヨモヨ]
まずい、入り口…というか出口をオタマジャクシ達に塞がれているではないか。
オタマジャクシ達は家族の仇を見つけたようにバタつき騒ぎ立てる。
私がその仇なんだけどさ。
[ギョロッ]
視線がこっちに向いたのを気づいた。
冷たく鋭い視線だ。
逃げなきゃ…、
いや…無理だ。
カエルの方がずっと速い。
出口のオタマジャクシは数が多すぎる。
強行突破する時間がない。
煙幕を張る?だめだ完全にロックオンされている。
同じ手は通じない気がする。
逃げられない。
ただその事実が叩きつけられた。
怖い。
今になって気づく。
今の私はただの虫ケラ。
ヤゴだろうが異世界だろうがただのひ弱な生物。
終わった、調子に乗った報いがこれか…、
いや、私はもう虫カゴの外なんだ。
ようやく手に入れた自由。
守ってくれる存在のない真の自由を手に入れた。
こんなオタマジャクシ達とは違う。
こんなちっぽけな存在で終われるか。
こんな夢見たいな世界を捨ててたまるか。
「私は…自由だ!!!」
私はカエルに向かって突っ込む、カエルは私に向かって下を伸ばそうと口を大きく開ける。
そこに向かって私は…突っ込んだのだ。
カエルは自分で食べたのかと思ったのか口を閉じる…。
[グリュッ]
カエルの内側から異音。
何かが食い破ってくる音。
頭にむかっっっっ………、
「ぅおっしゃああああああ!!!」
私はカエルの口の中から脳に向かって肉を食いちぎったのだ。
カエルは即死、私にとってはただの肉塊となったのだ。
オタマジャクシ達は焦る。
親を失いパニックになっている。
よかったじゃないか、私と同じ自由じゃないか。
同じ土俵へようこそ。
お皿の上にようこそ。
いただきます。
ーーーーー
[レベルが8→12にアップ。]
んぁ?私のレベルこんな高かくなってたのか。
まだオタマジャクシ食べ尽くしてないのに…カエルを倒したからかな?
つーかカエル美味しい。
相変わらずオタマジャクシ達はパニックになって散らばっている。
[ご飯探索:取得]
え、なにこれ?
なんか解説とかわからないかな?
[ご飯探索]
・半径10m以内にこれまで食べてきた食料と同種の物の位置と状態がわかる。
え、まじでなにこれ?
最高じゃん。
うーん…このまま元の拠点に戻るのも面倒だからここに新しい拠点を探しながら経験値を…ありゃ?
[ガリッ]
[レベルが12→15にアップ。]
は?え?なになになにこれ?
なんかよくわかんないけどさらに経験値もらえた。
おや、思えば体から力が湧く。
[ソラ]
・レベル15
・種族:ギンヤンマのヤゴ
・スキル[強靭な顎][高倍率視覚]
[遊泳2][水中歩行2][忍足]
[寄生虫無効耐性][美食の味覚]
[煙幕][ご飯探索]
今日1日で結構強化されたな。
うん、この調子で強くなっていこう。
全ては大空を駆ける自由を得るために。
ーーーーーーーーーー
その池の近くの村…
「なに?フィードフロッグの子供数が減った?」
「はい、おそらく何か外から侵入し食い荒らしている可能性がございます。」
「フィードフロッグは大きな魚の餌となり釣り餌としても使えます。このままでは生態系に影響が出るどころか我々の食料源を失いかねないことに。」
「早いとこ動くべきか。」
村の集会にて、村人達は話し合う。
「明日の早朝に調査を行おう。皆、準備を。」