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第14話:出発、ケイリューへ

 窓から朝日が差し込む。


 寝相の悪い狐娘は布団をぐちゃぐちゃに起きる。

 地上活動時間に制限の無くなったヤゴは寝相を知ってるので離れて寝て起きる。


 狐娘は大きめのリュックに物を詰め込む。

 意外と整理整頓が上手い、綺麗に収納している。


 耳をピコピコと、尻尾をフリフリと。

 薄暗い部屋にはワクワクとした目が輝く。


 「...よし、あれもよし、これもよし、ソラもよし!」

 「おはよう。」


 今日も元気なアイ。

 見守る私。


 「アタイは元気!ソラも準備万端っすか?」

 「準備も何も私ヤーグだからこれでいいのだけどね。」

 「万端っすね!じゃいくっすー!!」

 「どぅえ、ちょっ!?」


 アイは荷物を背負い私をガシッと掴んで家を出た。その顔は太陽よりも明るく、純粋で煌めいていた。

 守りたい笑顔とはこの事かな。


 ちょっと前に知ったのだがアイは14歳。

 無邪気っていうか可愛げのあるテンションはその若さ故によるもの。


 ...私より10も若い子だったか。

 (前世ソラ享年24歳)

 

 「あ、副長。アイちゃん達来ましたよ。」

 「お待たせっすー!!」

 「おはようございます。」

 「おはよう、ソラさん。」

 

 フラムさんと部下の2人。

 既に出発の準備は済んだ様である。


 「皆、気をつけて行くのじゃぞ。アイ、お前には初めての長旅じゃろう。外の世界を存分に学んでくるといい。」

 「はい!」

 「頼むぞフレム。」

 「任せとけよ、じーちゃん。」

 「ソラもアイを頼む。」

 「お任せください。」

 「めっちゃよろしくっすソラ!!」

 「...うん。」



 昨晩、夜中。


 「...。」


 夜行性故にふと夜中に起きちゃった私。

 屋根の上で星を眺める。


 相変わらず見た事ない星座ばかり。

 星座の概念すらあるか怪しいけどこの世界。

 しかしまぁ、テレビとかでは周囲一帯に街明かりや電気が無い山奥で見る星々は天の川が見える程に美しいのは知ってたが...、


 「想像以上だ。」


 一眼レフで納めておきたい程に美しい星々。

 ユイユイと行ったキャンプの夜空を思い出す。


 ねぇユイユイ、あの時のコーヒーってなんだっけなぁ。


 「モカだよ、ソラっちのお父さんからもらったちょっと高めのやつ。」

 「あーそうだった、豆挽き機も一緒に....ふぁ!?」

 「やほ。」


 なんでいるんですかユイユイさんよぉ!?


 「そりゃあ現世...あーいや人間界に顕現するくらいは余裕さ。」

 「サラッと思考読まないで。しかもジャージじゃん。」

 「懐かしいでしょ?」

 「私と会う時大抵それだったね...。」

 「あっはは。...さて、ソラっちが言った通りホント...懐かしいよね。高校の夏休みで行ったのがもうあんなに経つのかぁ。」

 「あの時の一眼レフ、まだあったっけ。」

 「遺品としてソラっちのお父さんから貰ったよ。アーシと遠出する時はよく持って行ったから。」

 「そっか、良かった。」


 神の顕現などすぐにどうでも良くなった。

 ただユイユイといつも通り話す。

 神とヤゴ、でも私達にとってはただの人間の同級生。


 10分程経った。



 「そういや...いや、話はこれくらいにしとこっか。」

 「...盗み聞きは良くないよ、人間さん。」


 誰かが姿を見せる。


 「...村長さん、フレムさん。」


 その目は謎が解けるようでより深まった様な目、

 信じられない存在を相対しどこかすくむ姿勢。

 今までに見た事ない村長の姿。

 フレムさんに至っては耳と尻尾が完全に怯え状態。


 「...やはりただのヤーグじゃなかったのか。豊かな感情と豊富であろう知識...もしや人間じゃったのか?それも、そばにいらっしゃるは...。」


 ユイユイはビシッとストップの手を、合図をする。


 「アーシの事は気にしなくて結構。...ソラっちに危害を加えないなら。」

 

 村長が冷や汗を見せた。


 「とんでもございません。私めにソラ様に手を出す理由など!!」

 「ぶっははは!なーに言ってんの、アンタ達が悪いやつじゃないくらいわかるさ。...ソラっちを村の仲間として迎え入れてくれてありがとうございます。」


 ユイユイは頭を下げ、

 村長達は焦る。


 「そんな、頭をお上げください!私は...、」

 「村長さん。こんな事言うのもなんだけど...素直に受け取って欲しい。私はユイユイのお陰でこの世界にやってこれた。けどそこから先はどうなるかわからなかった、そんな中アイや皆さんが私を受け入れてくれた。...とても嬉しい、これは私からの感謝でもあるんです。」

 「ソラさん...。」

 「...わかった。じゃがここで一つ、ワシからも言いたい事がある。」

 「?」

 「アイの友達になってくれてありがとう。あの子はワシ達がいても“一人”じゃった。以前この地域で大きな災害あってな、落雷がきっかけによる山火事でワシは息子...いや、アイは両親を亡くしたのじゃ。それだけではない、仲の良かった子達もその火事に巻き込まれた。以来あの子はどこか人との距離を空けていた、失う気持ちをもう味わいたくないからの。」

 「身内である自分達相手でも表面上は明るく接していたが、いつもどこか底知れない恐怖心を抱えていた。...でもそれはある時に吹っ切れた。」

 「?」

 「ソラさん、貴方が冒険者崩れの手配犯に襲われた事があっただろ?あの時ソラさんは死の淵にいたにもかかわらず戻って来れた。それがあの子にとってずっと一緒にいられる大切な存在という認識になったんだ。...あの歳で心に大きな傷が残ったアイを救えるのはソラさんだ。ありがとうソラさん。これからもアイをよろしく頼む。」

 「...はい!」

 

 するとユイユイが私を抱き抱える。


 「...こちらこそ、アーシの大親友をよろしくお願いします。ソラっち、これはアーシからのプレゼント。」


 [輪廻転生神の祝福]

 [輪廻転生神の親友]


 「...ナニコレ?」

 「すっごいやつ。少なくともこれでソラっちは難病や大きな病とかに罹らない、生々しいけど寄生虫の心配も無し!どんな生き物だって健康に生きるのが一番!もちろん普通の風邪も罹らない。あとはいずれわかるよ、そんな訳でソラっちは元気に過ごしてください!」

 「おお...なんてありがたい。」


 病気の心配無しなのはシンプルに嬉し過ぎる。

 流石我が親友。


 「ふふん、崇めたまえ。」

 「いや人前でもそのノリは相変わらずなんだな。」

 「当たり前じゃん、アーシとソラっちだから!」

 「はいはい。」

 「あ、あとなんかあったら今あげたヤツでアーシと連絡とれるよ。時々は連絡してよね?」

 「りょー。」



 時は現在に戻る。

 まぁなんというか、村長とフレムさんは私の正体を知った。だからこそ一層アイを守るよう信頼をおかれた。


 「ああそうじゃ、フレム、ソラ。ちょっといいか?」

 「??」


 (もし魔物の討伐や生態調査の依頼が舞い込んだら積極的に参加させてやってくれ。アイの実力と判断能力なら多少の無茶もなんとかなる。あの子の将来の為に努力出来る場を作ってやって欲しい。)

 (勿論です。)

 (自分達に任せてくれ。)


 「よし、アイよ!広い世界を学んでくるといい!」

 「はい!」

 「うっし行くか!」

 「アイちゃん頑張ってねー!」

 「アイー!応援してるぞー!」

 「アイをたのんだぜ、ソラさん!」


 村の人達に見送られながら私達は進む。



ーーーーー


 「ほえぇ、ヨウコウリザードってこの辺にもいたんすね。」

 「ああ、たまに商人の荷物にくっついて離れた土地に迷い込むんだ。ほらみろ、そこが国道だ。」


 昼になる頃、整備された道へ出る。

 どうやら国道らしい、そこそこな頻度でいろんな人を見る。


 「おお、こんな何もなさそうな道でも人はいるんですね。」

 「貿易や都に繋がる道だからな。道中何かあればどこかで商人やキャラバンを適当に捕まえるといい。」

 「なるほど。」


 バスやらタクシー代わりね。

 馬車ってどのくらい揺れるんだか。


 「あれ...副長、ちょっと待ってください。」

 「?」

 「ケイリュー方面からくる人や馬車がいないっていうか...異様に少なくないですか?」

 「!...確かにな。何があった...?」


 フレムは適当な馬車を捕まえ聞いた。


 「....まずい事になった。」

 「?」

 「どうやらケイリュー山方面でデカい土砂崩れが起きたらしくてな、それで道が塞がって通行止めになったらしい。」

 「ぅええ!?」

 「ケイリューに向かうなら途中回り道するしかないが...ケイリュー到着まで1日以上は増える。土砂崩れの片付けもまだまだ時間が掛かるだろうからそこから向かうしかない。」

 「回り道方面も厄介かもしれませんぜ、自分達が村に向かってた頃に魔物の縄張り争いが付近でありましたよね。まだ近辺がピリついてると考えるならギルドの人間としてはなるべく確認も兼ねて早く向かいたいと思いますが...。」

 「ああそうだな。兵士達が巡回はしているだろうが少々心配だな。休暇のタイミングで嫌な事って起きるもんだ。」

 

 状況確認と判断が早い。

 若けれど流石は副長と側近達ってところか。


 「ケイリュー行きの車両をどこかで捕まえよう。アイにはゆっくり旅の道中を楽しんでもらいたかったが...すまん。」

 「いいっすよフレ兄、早く行こ!」

 「私も急ぐのに賛成します。お偉いさんを困らせる訳にもいかない。」

 「おいおい、俺は副長だからってそんな大層な人間じゃねぇって。」


 そう話していた時だった。


 「うわーっ!!助けてくれーっ!!」

 「!?」


 後ろから大声が聞こえた。

 少々離れているが側近揃って獣人の彼らには十分聞こえたらしい。私は風の音で聞こえなかったがアイ達はバッと振り向く。

 

 何かと思い、アイが振り向いた先を見る。

 向こうから何かに追いかけられる馬車...いや馬じゃない。

 アレはデカいトカゲ...?

 

 「馬車じゃない、アレは...?」

 「竜車っす。アレは長距離向けの品種っすけど...その後ろ。」


 魔物の群れが竜車を追いかけている。

 さっきフラムが話しかけてた馬車も逃げている!

 というか国道がパニックに!?


 「なんだあれ!?」

 「げぇっ、フレ兄あれって!!」

 「ペイン・ビーだ!国道の近くに巣をつくってたのか!?」


 なんだあのでかい蜂!?

 50cmはあるかないかのデカさ。

 普通に怖い、私よりずっとでかい。


 「くそっ、休暇終わりになんてこった!!」

 「ウル、キヤ!逃げてくる奴らの避難指示を!アイ達は...行けるか?」

 「どぅえ、いきなりっすね。」

 「1匹1匹は翠蛇より遥かにマシだ。丁度いい、お前の氷魔法は虫に有効だ。どっかの器官くらいは凍らせれそうか?」

 「出来るっす。」

 「時間稼ぎでいい、俺が巣にいるだろう女王をなんとかする。」

 

 氷魔法で神経節とかを凍らせる...有効だけど相手は蜂だ。アイの使える範囲だとあの針を持つ相手に直接触れる必要がある。


 こりゃ全力で彼女を支えないと。

 私に何か有効打は...そうだ。


 「アイ、私の顎に氷の付与魔法!」


 私はアイの右腕にくっつく。


 「!...わかったっす!フレ兄、アタイ達を蹴飛ばしてっす!」


 アイが指差す方向にフレムは理解する。

 アイが軽く跳ね、


 「了....解っっ!!!」


 自身の脚をアイの脚に合わせ蹴飛ばす!フレムジャンプ台で真っ直ぐアイ達は蜂の群れに突っ込む!!


 「行くっすソラ!!」


 私の上下顎に氷の牙が付与される、

 

 「私のギロチンを味わえ!!」


 氷の牙が馬車にもっとも迫っていた蜂の首を斬る...いや、頭を噛み千切った。


 ペイン・ビーの視線が一気に私達に向く。


 「よし、私はこっち。アイはあっち!」

 「了解っす!」

 「ひぃ...助かっ...って獣人と...ヤーグ!?」


 わ、ワタシは何を何を観ている...ッ!?


 目の前にいるのはテイマー。

 だが主人は獣人。獣人は身体強化の魔法以外はあまり使えないはず。混血だとしても他の生物と主従を結ぶ高等魔法を使うには難しいはず。

 

 その上従えている魔物は虫系、それも水棲生物のヤーグ!?なぜ地上にいる、それに虫系魔物へのテイムは極めて難易度が高く、従えたとしても本能や習性に忠実な虫系魔物は指示魔法による行動がかなり単直になりやすく相手に読まれやすい。


 だがどう観ても、完璧な連携をとっているッ!


 主人の方はペイン・ビーを爪...いや、あれは氷か!氷の爪で切り裂いている。ただ切り裂いているのではない、ペイン・ビーは細身で関節部は特に斬れやすい。

 だが切られた体の動きがかなり鈍い。虫の神経節は人間でいう脳と神経、それが全身に張り巡らされている。頭を斬っても虫が動き続けるのはそれが理由だ。特に大型の虫類魔物となれば暴れる部位で怪我を負う事例だってある。

 だがそれがあまりに鈍い。間違いない、あの氷の爪が切断面や傷口を瞬間的に冷却しているのだ。生物の中でも虫類は特に寒さに弱く、それもペイン・ビーの細身ならすぐに冷えるだろう。


 あのヤーグも同じだ。

 というか、


 「アイ、上!!」

 「どりゃあっっ!!」


 喋ったッッ!!

 喋っているっっっ!!?

 喋って主人と共に戦っているっ!!!


 テイマーと言えるのか。

 そもそもテイマーなのか?


 ただワタシの目に見えているのは、

 

 「「コレで最後っっ!!」」


 あまりによく出来た信頼そのものであるッ!!

 それはまさに魔物と共に生きるテイマーの鑑そのものと言っていい、その輝きは宝石の何倍もの輝きを放っているっ!!


 「...お?」


 蜂達が急にバラバラに動き始める、

 すると蜂同士でぶつかったりふらふらと飛んだりと混乱している。

 そこに統率感など微塵も無い。

 しかし襲ってこない。


 まるで闘いに負けて打つ術もない様な...もしかして。


 「おーい、そっちはどうだ?」

 「ヒィッ!?」


 現れたのは女王蜂を仕留め持ってきたフレム。うわぁ...羽が引っこ抜かれて頭が体と泣き別れ状態...。

 しかもフレムの状態から見てかなりあっさり女王を駆除したと見える、彼レベル高いな...?


 「おお見事に混乱してるな、1〜2分もあれば全滅確定だ。」

 「女王倒しただけでこうなるの?」

 「そうっす。ペインビーの女王は指示魔法が使えるっす。働き蜂を完璧な兵、手足として動かす為に指示魔法とフェロモンを併用してるんす。」

 「魔物も上位種は魔法を使える事が割とある。だが今回は俺が女王に死の恐怖を与えた事でその意識がコイツらにも流れた。より手足として確実に兵を動かそうとした生物的構造が仇になったんだ。女王の死に合わせコイツらもそろそろ...お。」


 ペインビー達が次々と、ボトボトと地に力尽きる様に落ちてゆく。女王の死の感覚と意識がフィードバックされたのだ。


 「大漁大漁...しかしどうしたものか。」

 「?」

 「ああ、ソラはアイテムボックスって知ってるっすか?」

 「え。」


 なんだって、あいてむぼっくすぅ?

 それってまさか絶対って訳じゃないけども異世界おなじみ、荷物の持ち運びに於いて圧倒的有利性と利便性を持つあの?


 「あー、俺から説明するわ。ソラさん。」


 彼の口から出た説明から聞く限り、

 どうやら想像通りのモノだった。

 空間に穴を開けてどこかの異空間を倉庫にする。

 そんな魔法。


 そして彼らはソレを使えない。

 獣人は身体強化魔法以外は基本ほぼ使えない。


 「売るとか素材にするとかは別にしても片付けねぇと別の魔物が餌として狙いに来るからな。いい感じの商人やら行商が来るまで待つってのもな...。」

 「でしたら!」

 「お?」


 立ち上がったのは助けた竜車の御者。

 

 「アンタ...よく見りゃ市場の!」

 「ええ、そうです!顔を覚えていてくださったとは!」

 「市場?」

 「ケイリューや他の町にデカい市場がある。彼はその市場全体を取り仕切る組合のナンバー3だ。」

 「3!?」


 すんごい上の人じゃん!?

 フレムさんアンタ敬語じゃなくていいの!?


 「ワタシはケイリュー支部に視察に行く途中だったのですが先程の通り魔物に襲われてしまいまして、いやぁ死ぬかと思いましたよ...。」

 「ご無事で良かったです。しかしペインビーの被害、ほんの少しずつですがやはり増えていやすね。」

 「キヤ、ギルドに戻ったらコレの状況も再度調べてくれ。」

 「ほいさ!」

 「それでなのですが、お礼としては難かもしれませんが我々でこのペインビーを買い取ってもよろしいでしょうか。勿論相場よりも高値をお約束致します!」

 「あーそれは嬉しいんだが...。」

 「積載はご心配なく。」


 商人は手を前に出す、

 すると...魔法陣が現れ、空間に穴が開く!


 「おおお!?」

 「ワタシはアイテムボックスを使えます。申し遅れましたがワタシの名はエトワイルと言います。助けて下さりました皆様へステラ市場組合の一員として全力を尽くさせて頂きます。ささ、竜車の中へどうぞ!」


 こうして私達一行はハプニングに遭うもとりあえずはケイリューに向かって進んだ。

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