表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

第1話 虫カゴの中の私

 みんなはトンボ好き?


 トンボといえば何を思い浮かべる?


 ・赤トンボことアキアカネ!


 ・夏の訪れ、シオカラトンボ!


 ・漆黒の美しさ、カラストンボ!


 ・変わったお腹、ウチワヤンマ!


 ・最強最大、オニヤンマ!!


 うんうん、いっぱいいるよね!


 特にオニヤンマは大きくカッコいいし強い!

 子ども達には人気の昆虫だよね!


 オニヤンマは顎が強く獲物を容易く噛みちぎり、

 最高速度は時速70kmもあるという。

 その戦闘能力はスズメバチが逃げる程。

 (※場合による。)


 人気が出て当然というわけだ!



 でも知ってるかい?

 その速度を上回るトンボがいるって事を。


 〈ブツッ〉



 「もう答えわかるしいいや…。」


 部屋のラジオを消した。


 私は“白銀シロカネ ソラ“。

 日本の現代を生きるただの社会人。


 強いて特徴を言うなら翠色フレームの丸眼鏡をかけてる事かな。


 都会に生まれ住んでいたのだけど嫌になったのかな、四角い世界って言うか鉄に囲まれるのに強い窮屈感を覚えてしまった。


 学生時代は特別頭が良いわけでもなく悪いわけでもなく普通だった。


 「...そうか、ソラの決めた事なら反対はしないさ。引っ越し先は決めてあるんだろ?準備手伝うぞ。」

 「うん。」


 昔、父に連れて行ってもらったキャンプ。

 そこの川で見た見た事ない生き物。


 知らなかった。

 初めて見た時、気持ち悪い見た目だと思っていた虫がトンボになるなんて。


 父は言っていた、ここはとっても良い川なんだと。


 大きな湖に向かって流れるあの川はとても綺麗、

 こんな都会や開発の進んだ場所にはいないだろう生き物がいっぱいいる。


 丁度向こうには親戚がいる。

 迷惑になると思い断ったのに、生活が安定するまで住んでいいと言われ現在引っ越しの準備をしている。


 優しい人達ってのは知ってるのになんだろこの感じ...向こうに行けばこんな気持ちを感じずに済むのかな。


 ...すっかり暑くなってきた。

 買い物に行くために私は車のエアコンをつける。


 信号で止まる。

 ふと窓に目を向けると何かが宙を舞い、通り抜ける。


 「ギンヤンマ...。」


 ギンヤンマ…最高時速は70kmから100kmを出すことから昆虫界最速の生物と言われている。

 その速度はあのオニヤンマを超えているのを意外と知られていない。


 私と同じ翠の眼鏡。

 必死に生きてる。

 でもトンボの方が自由に見えるのはなんでだろう。


 ...私は空を見て思う。


 空を飛ぶ鳥、

 鋭い日差し、

 吹き抜ける熱風。


 ああ、そうか。

 

 自分を守ってくれる存在がいないんだ。


 [ビッーーーーーーー!!!]

 「!!」


 目の前に車。

 でもこっちを向いている。

 信号は先頭で止まってたのに。

 

 ああ、信号無視か。


 私はあのギンヤンマと違って、

 狭い鉄の箱の中で死ぬんだ。


 

 虫カゴの中にいたのは私の方だったんだ。



 “生きていれば死ぬほど苦しい事は数え切れない程あるんだ。だから苦しくたっていい、次はもっと...自由になりたい。”



ーーーーーーーーーー


 ...。


 あー…死んだな、


 親には悪いけどあんまり良い人生とは思えなかった。

 恵まれすぎたから。


 それよりも不思議だけど。

 プカプカと水の中にいるような感覚、


 三途の川ってやつ?

 それにしたってはこう、あの世っぽい感覚じゃない。


 真っ暗...と言うか変な景色。

 見えなくてかなりストレスだ。


 メガネ外して真っ暗な夜中歩くよりはマシだ、

 どうにかして見えないかな?


 [高倍率視覚:取得]


 今のファミコンがゲームボーイみたいな音はなんだ。


 あれ、目が見えてきた。

 ...何これ、思ったよりも見える。


 (ブクブク...ゴポッ)


 うわやっぱり水の中じゃん。

 しかも服着てる感覚が無い、やば!?


 まずいまずい息が...息が....出来る。


 (ヒョイッヒョイッ)


 え、え、なんだこれ。

 ...本当に何これ!?


 腕が...小枝だ。

 ほっそ、え、てか...1..2..3..4..5..6!?


 足が6本ある!?


 ナニこれ…本当にナニこれ。

 人間じゃないのは確実だ。


 でも見たことあるぞ?

 まさか…記憶が合っていれば私は今…水から出られない。


 幼き日に図鑑で見まくったあの光景。

 成虫とは似つかない見た目と生態。


 水の中で生きて大人になると空へ飛び立つあの姿。


 「ヤゴだ…私ヤゴに生まれ変わっちゃった…。」


 悪い事をしたら閻魔様が弱っちい存在に転生させるとか聞いたことあるけど、あの世見てないし閻魔も会ってないしそもそもそんな大犯罪やってない。


 それにここどこの川だ。

 日本だよね…?


 …どうしたら、ってか何しよ。


 ヤゴだからスマホなんて無いし…エサ見つけるくらいか。

 食料の有無は死活問題そのものだ。


 ヤゴって確かボウフラとかミミズ、オタマジャクシやメダカとか食うんだっけ。

 それと身を隠せそうな場所を見つけ…と思ったけどここ岩場かつ水草もあるし影で流れもない。見た感じ他に何かいる気配はない。拠点には良さそうだ、でも他の生物も来るだろうから油断は出来ない。


 あそこは若干流れが速い。

 上流から何か獲物が流れてくるかもしれない。


 カエルや大きめの魚が天敵だ。

 拠点にちょうど良い感じに複雑で身を隠せる狭さの穴があった。


 多少成長すればカエルも餌にできるだろう。


 よし、わかんない事多いけど生活の目処っぽいのが立ってきたぞ!


 〈ピロンッ〉



 [ソラ]

 ・レベル1

 ・種族:ギンヤンマのヤゴ

 ・スキル[強靭な顎][高倍率視覚]


 うわっ、なんか出てきた!?

 え、これもしかして所謂ステータスとかそういうのだよね…?


 ああわかってしまった。

 ネットを使っていた身であったが故にわかってしまった。

 

 ここ日本じゃない、異世界だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ