ギルド依頼
ハルカがパーティーに加入してから二ヶ月。付き合いが長く深くなり、仲間たちを強く信頼したハルカは、自分がこの世界の者ではないと打ちあけた。
それに対し彼らは驚きもあったが、どちらかというとエリオの育ての親である仙人の話と同じように半信半疑といった印象を受けていた。
(あれ? 意外と驚かないのね)
彼らの感覚では異世界人は遠い異国と大きな差異はなく、世界のどこかにあるという浮遊王国と同じくらいに認識し、これまでと変わらずハルカを受け入れた。
そして、さらに半月が過ぎた頃。
「今回のギルド依頼はハイテール山に生息するヴィオレントガリルの放逐、または討伐だ。本来の生息域を出て、かなり山を下りてきたことで数件の被害が出ている」
エリオが持ってきたこの依頼をザックが説明した。
ヴィオレントガリルは大型の猿獣でそうとうな強さではあるが、本来なら自主的に人を襲うことはない。だが、今回は一頭二頭がはぐれたのではなく、多くのヴィオレントガリルが山を下りてきている。その影響で他の野獣も生息域を追われ、生態系は大きく乱れてしまっていた。
「攻撃的な野獣じゃないから危険度はそれほど高くないんだけど、ヴィオレントガリルはけっこうな強さだし群で行動するから、依頼が受けられるランクの規定は高いんだ。本来ならパーティー全員がB級以上で人数も最低八名。だけど、ギルド長に交渉して条件付きで承諾してもらった」
***
「いいねぇ。馬車で送ってもらえるなんて」
「柔らかい椅子があるうえに無料よ」
荷馬車ではなく客車を引く馬車の料金は高いので、一介の冒険者パーティーはまず使わない。
「国からの依頼だからな。確実に達成するための配慮だろう」
椅子には座らず荷台で横になっているザックがそう説明した。
「はっはっは~、俺たちの協力あってのことだからな。感謝しろよ、エリオ」
少し恩着せがましく言う彼の名はセミール=チェイサー。明るい茶色の髪の毛は冒険者としては珍しい長髪。身にまとう軽鎧も白と赤という派手な色彩がトレードマークで、ある意味ギルドでは有名人だ。
「セミール。あなたのおかげってわけじゃないでしょ。ランクさえ達していれば誰でも良かったんだから。ねぇフォーユン」
「フレスの言うとおりだ。エリオが声を掛けてくれなかったら俺たちだってこの依頼を受けられなかったんだからな。国からの依頼に貢献できるっていう名を上げるための機会をもらったんだ。逆に礼を言わなきゃいけないくらいだぞ」
セミールをたしなめるのは同じパーティーのフレスとフォーユン。三人はパーティー結成前からの古馴染みだ。
今回の依頼に参加するための条件は、ギルドが認めた別パーティーに協力してもらうこと。その協力者が彼らだ。
「ふっ、俺とエリオはこれからギルドを支えていく双翼。俺が力になってやらねば飛べないではないか」
(その言い方だと半人前って聞こえますけど。そうなると、セミールさんもひとりでは飛べない半人前ってことになっちゃいますよ)
「セミールさんて、ちょっと面白いよな?」
「なんか憎めない人よね」
ハルカの横に座るリオーレ兄妹が小声で言った。
「AA級のお前の力、見せてもらおうか」
「上から言ってるけど、あなたはB級上位。片翼にもなってないじゃない」
「せめてA級になってから言わないと恥ずかしいぞ」
「うるさいな! いちいち突っ込むんじゃない! 今回大活躍して上がる予定なんだ!! いいかエリオ。すぐに追いつくから待ってろよ!!」
(あっ、こっちが彼の地なのね)
「あぁ待ってるよ。俺が目指すもっと上でね」
「エリオが目指すのは冒険者百選の上位、十闘士だぞ。お前がたどり着けるか?」
後部の荷台から聞こえたザックの声にセミールはムッとして言い返す。
「エリオが十闘士なら俺は王国勇者になってやる。見てろ!」
今期、冒険者百選に選ばれたエリオに対して、彼はよりいっそうライバル心を燃やしていた。
こうして八人が馬車に揺られて到着した場所は、ビギーナの町から遠く離れたうっそうとした森の中にある小さな村だ。そこを開拓拠点として調査を進めた結果、ヴィオレントガリルが生息する山の中腹より下であれば、安全に人が住むことができると確認できた。しかし、開拓を始めて間もなく騒動が起こってしまったのだ。
到着した村には屈強そうなメンバーで構成されたパーティーが何組かおり、拠点の者から説明を受けていた。
「こえぇぇぇぇぇ」
「めちゃめちゃ強そうな人たちばっかりじゃん。あたしらはお呼びじゃなさそうな空気よね」
「見た目と強さは比例しない。俺がその例だろ?」
(セミールさんが言いたいことはわかるけど、それって自分が弱そうに見えているって自覚しているようにも聞こえるわ)
ハルカが口には出せない突っ込みを入れながら、集まっている冒険者たちに近付いていくと、それに気づいた者たちが鋭い視線を向けてきた。
「ちょっとなんでそんな威圧してくるのよ。田舎の弱小パーティーだからってさ。同じ依頼を受けた仲間じゃない」
レミはおびえるが、もちろんハルカは動じない。
「弱小だなんて卑屈にならないでください。こっちにはAA級のエリオさんがいるんですから」
そう、彼らは若くして冒険者百選に名を連ねたエリオを見ていた。エリオに並ぶ実力を持つ数人も、彼の持つ王具を羨ましくも妬ましく見つめている。だが、大半の者たちの視線は、うら若いレミとフレス、そしてハルカへ送られている。とうぜん、エリオパーティーの女性率の高さを羨ましく思う者たちの心の色味をハルカは感じ取っていた。
(何か悪意とは違う邪な色味を感じるわ)
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