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ヒーローは辞めても人助け

 一般人のレベルを大きく逸脱した速度で走ること三分。現場に到着したハルカは木陰からそっと覗き見る。そこには獣の巣となりそうな洞穴があり、標準規格より大きめのカイトシールドを構え、鎧で身を固めた巨漢の重闘士(じゅうとうし)がスペリオルウルフェンの群に囲まれていた。


「えーと、スペリオルウルフェンだったっけ。魔獣よね。大きな犬じゃなくて、ウルフェンって狼かな?」


 ハルカは緊張感に欠ける言葉で冒険者の基礎知識にあった危険対象一覧を口にした。


 一対一なら勝てる実力はあるようだが多勢に無勢。抵抗むなしく追い込まれていた。その理由のひとつは、彼の後ろに倒れている仲間と思しき少年と少女だろう。


「このままじゃ危ないわね」


 ハルカは森から飛び出して魔獣の群に身をさらし、自分へと意識を向けさせた。その行動によって重闘士を包囲する後方の十頭ほどが向きを変え、ハルカを警戒しつつにじり寄ってくる。


 大型犬をふた回りたくましくした体格のスペリオルウルフェンの強さは、そこらの野獣と比べるまでもない。さらに、集団で行動するため遭遇すればやっかい極まりなく、並みの冒険者であれば成す術はない。


「フリージングハリケーン」


 ハルカが無造作に差し向けた杖と発した法名により、魔獣たちの足元から極寒の旋風が立ち上がる。その魔法は駆け出しの冒険者である彼女ではあり得ない、絶大な威力と規模によって顕現された。


「なんだ?!」


 大盾に身を隠しつつ後退する男を少々巻き込み、極寒の旋風が荒れ狂う。猛烈な冷気の渦によって体温を奪われたスペリオルウルフェンの群は、霜に覆われた状態で戦闘不能になっていた。


 近くにいた助けるべき巨漢の重闘士もその冷気に当てられてしまい、冷却された盾と鎧が彼に苦痛を与える。それでも、倒れる少年少女の壁となって冷風からふたりを守っていた。それに気づいたハルカは慌てて彼のもとに走り寄る。


「ごめんなさい! 魔法には慣れていなくて」


「謝る必要はない。おかげで命拾いをした」


「間に合って良かったです」


 その言葉に彼はつらそうに目を伏せた。


「残念だが手遅れかもしれない」


「まさか、その人たちが?」


 彼の後ろに倒れているふたりを見たハルカは眉根を寄せる。少年は首から肩にかけて嚙み千切られ、痩身矮躯(そうしんわいく)の可愛らしい少女の両手両足は多数の噛み傷によって損傷していた。


「傷が深い。治療用のポーションも尽きた。町に連れて帰る頃にはもう……」


「でしたら、わたしが治療します」


 ハルカの口から出た言葉に巨漢の男は伏せていた目を見開いた。


「ってことは治療系のポーションを持っているのか?」


 腕をグイグイ引っ張る彼に、ハルカは「んがんが」と妙な声を出しつつ答える。


「いえ、そういったポーションは持っていません。わたしは白魔術士なんです。適性は……」


 『低いんですけど』と言う前に、彼は言葉を被せてきた。


「本当か? だったらこいつらを治療してくれ。頼む!」


「もちろんです。男の子の傷のほうが酷いですね」


 そう言ってリュックから革の水袋を取り出して傷口を洗い流し、彼の傷口に手をかざした。


「癒し、清めよ、悪意ある刻印を。ケアリオーラ」


 彼女がかざした手のひらに小さな魔術陣が描かれて、その光を受けた傷が少しずつ癒されていく。それは、術者のハルカが苛立ちを覚えるほど遅々とした治癒速度だったのだが、彼は何も言わずに見守っていた。


 そのときハルカは、ふたりの首に下げられた冒険者証に目を向ける。白い縁取りの金属板は(コントリビュート)級。自分とそう変らないであろう年齢のふたりは、黄色で縁取られた(ドーン)級のハルカよりも上級だった。


(こんな子たちが恐ろしい魔獣と戦う世界なのね)


 そんなふうに憂いている彼女の危機感知に何かが引っかかった。その数秒後、激しい音と共に突風が吹いて森の木々が破られた。


読んでいただきありがとうございます。

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