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冒険者百選 VS 寒烈の勇者

 城塞都市ブレッドではエリオと勇者グレイツの戦いが続いている。ふたりの実力には大きな差があるのだが、ザックが上手い具合に牽制していることもあり、エリオが守りに徹していることで戦いは長引いていた。


 それは本物の魔道具を持ったセミールを少しでも遠ざける意味では望むべきことだったのだが、魔族が彼を追いかけていった現状では意味をなさない。こうなってはこの場に縛りつけられているのはエリオたちのほうだ。


「粘るな。守りに徹すればどうにかなると思っているようだが、それも時間の問題だぞ」


 グレイツの言うとおりエリオの限界が迫っている。牽制を入れているザックだったが、半分はグレイツに警戒されているため手を出せない状態でもあった。


 本来ならば、そろそろ撤退する作戦を実行する予定であったため、ザックはどの作戦にするのかと焦り迷っていた。


 対魔族用に用意した拘束魔道具を使うのか。自分も戦いに参戦するのか。それとも……。


 そのとき、エリオの剣が弾かれる。跳び下がりながら舞い上がる自分の剣の軌跡を目で追ったエリオの視界に、あるモノが入った。


 エリオの剣はグレイツの横に落ち、石畳を数回叩いて沈黙する。それがエリオの戦意の喪失とならないのは、彼が見たモノが心を燃え上がらせたからだ。


「勝負だ!」


 この掛け声にザックは次の作戦がなんなのかを理解する。


「武器を失った君に何ができるというのだ?」


「武器ならあるさ」


 エリオは腰にぶら下げていた拘束魔道具をグレイツの足元に転がした。その魔道具が強力な光と煙と魔鉱青石(まこうせいせき)の粒をまき散らす寸前に、グレイツは一足飛びで後方に退避する。


「足掻くか」


 視界を塞がれたグレイツは、慌てることなく腕を振り上げ魔法で迎撃する。


「ハンドレッドヘイル」


 生成された氷の(つぶて)の群れが彼の腕の振りに合せて飛んでいき、もうもうと湧き立つ煙を貫いた。


 しかし、煙の向こうのエリオの気勢は衰えない。そこへグレイツが意識を集中させたとき、彼の側面から大盾を構えたザックが飛び出してきた。


「ランボルチャージ」


 猛牛の突進がグレイツの左腕に激突。鎧と盾の重量と相まったその衝撃によってグレイツは弾け飛んだ。


「ちっ」


 その手応えの軽さに自ら飛んで衝撃を緩和したのだと気づいたザックは舌打ちし、反撃を警戒して身を固める。


 グレイツは左腕に巻かれた法具の腕輪に魔力を乗せて法名を叫んだ。


「フリージングガスト」


 超低温の冷気の魔法が拘束結界の分厚い煙幕を吹き散らす。しかし、その魔法はザックにではなく、煙幕に乗じて飛び込んできたエリオに向けられていた。


 対象外のザックでさえその冷波の影響を受けるのだが、エリオはものともせずに剣を上段から振り下ろし、その剣閃は飛び下がるグレイツの胸当てを斬り裂いた。


「浅いかっ」


 本来ならばエリオの全身は氷結して動きを封じられるはずなのだが、体から立ち昇る赤く揺らめく炎のようなオーラがそれをさせなかった。


「王具か?!」


「そのとおり!」


 煙幕が視界を遮ったタイミングでザックがエリオに投げ渡した王具グレンはすでに能力解放状態だ。解放されたグレンの攻撃的能力向上効果を得た動きにグレイツはついていけない。死角へ死角へと近接戦を挑むエリオの二撃、三撃に対して後手となった彼は、後ろを取られてその背中を斬り付けられた。


 前のめりに倒れるグレイツの姿を見る兵士たちの動揺は大きい。それは、冒険者百選のエリオが寒烈の勇者を打ち負かしたからだ。


 エリオは息を弾ませながらもグレンの能力解放は解かず、倒れるグレイツに切っ先を向ける。


「勇者グレイツ。この勝負は俺の勝ちだな」


 少し間を置いてからグッと目を閉じたグレイツだったが、その表情を弛めて言った。


「そうだな。君の勝ちだ」


 グレイツは剣を離して手を上げる。


 その言葉を聞いたエリオが左手の拳を空へ向かって突き上げたのは、上空で戦いを見守っていた彼女へ応えるため。その彼女はというと……。


「良かったぁぁぁぁ」


 アルティメットガールは溜めていた息と共にその言葉を吐き出した。


『世界の平和を望み、常人には手に負えないあらゆる脅威から人々を救う』


 これが彼女のモットーだ。それは、裏を返すと極力人間同士の争いに助力しないということでもあるのだが。


「決闘に横槍を入れたくはないけど、エリオさんの命が関わることなら、そうも言ってられないわ」


『過ぎた力にはそれに伴う大きな責任を自ら課せなければならない』


 育ての親に教わったこの言葉を、彼女は胸に深く刻んでいた。


 それもあって自分が定めたモットーを守ることを誓っていたのだが、やはり好きな人の死を前にしてまで守れるモノではない。恋という感情を知った彼女は、そのことを改めて考えるのだった。


 その彼女の眼下では、勝者のエリオが敗者のグレイツに権利を主張していた。


「勝者の命令だ。その傷が治るまでしばらく仕事は休んでくれ。兵たちも含めてな」


「……私に勝った君を現状の戦力で止めようとする者がこの場にいるかな?」


 衛兵たちは強い警戒心や恐怖の目でエリオを見て、その身を固めていた。


 エリオがグレイツから距離を取っていくと、傷を負ったグレイツに衛兵たちが集まる。


「君たちではヴェルガンを止められない。一時撤退する」


 グレイツは肩を借り、その去り際にエリオにこう告げた。


「次は聖剣を持って挑ませてもらう」


 エリオはその言葉に覚悟を決めてうなずいて返した。


「エリオさーん」


 手を振りながら走ってくるのはハルカだ。後ろからレミとマルクスも付いてくる。その姿を見たエリオとザックはひと安心しつつ手を振り返した。


「セミールさんは無事です。アルティメットガールが彼を助けたって言ってました。だから、わたしも戻ってきたんです」


「追手が放たれる前に合流して手を打とう」


 エリオたちは大きな木の上でひとり待っているセミールを迎えにいくのだった。

読んでいただきありがとうございます。

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