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エリオパーティーの目的

 仲間たちが意味深なやり取りをしているあいだにエリオが到着し、笑顔のハルカとふたりで馬車に乗り込んでくる。


「お待たせ」


「なぁエリオ。本当に持ってきたのか? あの魔道具を」


 小さな声で確認するマルクスにエリオはサムズアップを返し、それを見たザックが立ち上がった。


「いいか、俺たちは魔族に対抗できる退魔の呪印を手に入れ、壁破の儀でさらなる力を得るために魔道具を持ち出した。目的地は町にある儀式の間や大聖堂じゃない。目指すのは隣国ハークマインのその向こう、黒の荒野の入り口付近にある聖域の聖殿だ。だが、それで終わりじゃない。その後、この命の石を英雄の国アドミニストに届けて管理を頼む。浮遊王国アドミニストの入口は聖域の近く。黒の荒野の険しい谷にあるらしい。それはつまり、魔獣や魔族と遭遇する可能性があるってことだ」


「今ならまだ町に戻れるよ。どうする? マルクス、レミ」


「行くわよ。あたしたち仲間じゃない」


「なんで俺とレミにだけ聞くんだよ」


 不服を漏らすマルクスに対して、「俺がエリオに力を貸さないわけがないだろ」と絆の深さをザックは見せつける。


「この魔道具に命の石が使われていることはギルド長、衛兵長、町長の三人しか知らない。俺たちも知らないことになってるけど、持ち出したことがバレたら大問題になるだろう」


「わかってるよ。あんまり考えさせられると心が揺らぎそうだから、早く出発しようぜ」


「そうですね。急ぐにこしたことはありません」


「よし、行こう」


 こうしてエリオパーティーは、命の石を誰の手にも届かない場所に預けるために出発した。


(世界の秘宝である命の石。その石によって悲劇が生まれないように自分の今後を顧みずに行動するエリオさん。わたしは彼のために全力でサポートするわ)


 この世界に来て新たな人生を送ることを決めたハルカに、初めて明確な目的ができた。


 ※※※


 エリオパーティーが出発した次の日の早朝、ギルドにある青年が訪れる。


「次の方どうぞ」


 パールに促されて前に出てきた者は、髪を肩近くまで伸ばした長身の美男子だ。


「ギルド長のゴレッド=モリンミートと面会したいのですが」


 装飾のある整った服装は色白で細身な体格と相まって冒険者らしさが感じられない。しかし、落ち着いた声と言葉からは紳士さと強者の余裕が感じられた。


「ギルド長に面会? お約束ですか?」


「私はグレイツ=アンドラマインと言います。イラドン大臣の命を受けて来ました」


 そう言って提示してきたエンブレムを見たパールが驚いた理由は、彼が王国の勇者だったからだ。


 ギルド長室に案内された勇者グレイツは、エリオが魔族から奪取した魔道具を王国に引き渡すようにとゴレッドに伝えた。


「なぜあの魔道具のことを? 引き渡す理由は?」


 この問いにグレイツは「国家の三大指定危険事項と言えばわかりますよね?」と返す。つまりグレイツは、魔道具に命の石が使われていることを知っているということだ。そして、ゴレッドはすぐに察した。自分が連れてきた賢者がそのことを漏らしたのだと。


「あの野郎。自分の欲と立場のために売りやがったな」


 小声で毒づくゴレッドにグレイツは薄く笑って言った。


「そのことを黙っていたことで起こる事件は、国家転覆の一大事になるかもしれません」


 グレイツが言うように命の石とは恐るべき力を備えた秘宝だ。だからこそ、その情報があっさりと漏れたことにゴレッドは懸念を持った。その相手が王国だとしても。


「考えるまでもありません。私が責任をもって持ち帰ります」


 外には三十名ほどの精鋭部隊。そして、先日の魔族強襲に際して救援に呼んだ騎士団がまだ常駐している。これだけの戦力で命の石を護衛すれば、そうそう強奪できるものではない。


「国からの要請ならばしかたない……か。あれはここの地下保管庫に入れてある」


 ゴレッドはゆっくりと腰を上げてグレイツを案内した。


 巨大な保管庫の扉を重々しく開いて中に入り、室内にあるもうひとつ大きな扉の鍵を開ける。分厚い扉の中にはいろいろな武具や魔道具が保管されており、その中にぼんやりと青白く光る封魔術の施された箱があった。


「こいつだ」


 ゴレッドは解術の法具を使って封魔術を解いて蓋を開けた。


「あぁぁ?!」


 ゴレッドの声を聞いてグレイツが覗き込んだ箱の中には『ごめんなさい ヴェルガン』と書かれた紙が入っているのみ。


「これはどういうことですか?」


 取り乱さないまでも強い口調で問うグレイツに対して、ゴレッドはこう答えた。


「そういえば、エリオは魔族に対抗するために退魔の呪印が欲しいって言ってたな。それと壁破の儀で成長の壁の突破もしたいって」


「そのために命の石を持ち出したと? 危険すぎる」


「いや、あいつはこれに命の石が使われていることを知らない。魔族が昇格の儀をしていたのを見て思いついたんだろう」


 町長にでも確認すればバレる嘘を少々棒読み感のある言い方でゴレッドは伝えたのだが、そんなことなど気にもせずグレイツは質問した。


「彼が向かった先を知っていますか?」


「さすがにそこまではわからんが、儀式ができる場所は限られている。呪術を安定増幅させられる儀式の間。でなければ呪術に長けた者のいる聖殿や大聖堂だな」


 その話を聞いたグレイツはギルドの外に飛び出し、連れてきた騎士団に指示を飛ばした。


「王国領土の儀式ができる場所すべてに兵を回せ。それと関所の検問強化と国境に兵を配備。ヴェルガンとその仲間を国外へ出すな」


 グレイツの号令を受けた騎士団はすぐに動き出した。


「エリオ、気をつけろよ。勇者が動いたぞ」


 魔族に狙われるということに次ぐ最悪の事態に対して、ゴレッドはエリオの今後を憂いてそう呟いた。

読んでいただきありがとうございます。

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