エリオの動向
角無しの魔族の強襲から三日。その強襲の理由が魔道具を奪ったからだと判明したことで、エリオは町長たちに呼び出されて詰問を受けることになった。
「なんで正直に言っちゃうのよ!」
「そうだぜ。ギルド長が口裏合わせてくれるって言ったんだろ?」
リオーレ兄妹の言い分にエリオが苦笑いを返したのは、自分たちが魔族の儀式を止めたことが今回の事態を引き起こしたと自供したからだ。
「ヴィオレントガリル放逐の合同依頼のときに話しちゃってるんだから、そのうち広まることは間違いない。ギルド長の立場を考えたら嘘をつき続けることはできないよ」
「でもよ、魔族の儀式を防いだんだから、褒賞が与えられたりするんじゃ……」
そう言いながらも仲間たちの表情と視線が痛くなり、マルクスは尻切れに言葉を止めた。
「どう考えても罰則でしょ。そんな空気でしょ!」
妹のレミに怒鳴られて背中を丸めたマルクスにザックが助け船を出した。
「魔族の儀式を阻止したことだけを見れば褒賞が与えられてもおかしくない功績だとは思う」
だが、ここからは懸念を口にした。
「しかし、命の石が使われていたとなると事は大きく変わってくる。あの秘宝を手に入れた国は、他国を大きく引き離す絶大な力を得てしまう。国家間のバランスが崩れて貿易なんかにも影響が出かねない。小さないざこざも増えるかもしれんし、最悪の場合は戦争なんてことも……」
その頃、エリオへの詰問を終えたギルド長と町長と衛兵長とで、話し合いがおこなわれていた。内容は、エリオの判断が正しかったのかどうか。そのことがもたらした被害。今後の対策などだ。
今回は運良くアルティメットガールが魔族を撃退してくれたものの、その生死は不明。別の魔族が襲ってくる可能性もある。そのため、町は第一級を超えた防衛措置が取られるなどしたが、もちろん最大の論点は命の石についてであった。
詰問から解放されたエリオは「ちょっと里帰りしてくる」と、怪我を押して師匠である仙人に会いに行ってしまった。
「急になんだよ。パーティーの非常時に里帰りだなんて」
「非常時だからじゃない? エリオなりに今後の身の振り方を考えているのかもね」
「それってパーティー解散ってことか?」
「知らないわよ。でもエリオには仙人様の後ろ盾があるってことでしょ? あたしらとは違う道を進むつもりなのかなぁ」
そう話すレミは少し寂しげだったが、ハルカの心情は寂しさだけではすまなかった。
(エリオさんとお別れってこと?)
「エリオの力量ならどこのギルドでも引っ張りだこよね」
「いや、ギルドどころか王国騎士団にだって余裕で入団できるだろうぜ」
「騎士団に入れるなら勇者候補よね? 王具だって扱えちゃうんだから」
「正式に王国勇者になれば聖剣が貸与されるじゃん。そしたらグレンを俺に譲ってくれないかなぁ」
「馬鹿ね、あんたが王具を扱えるわけないでしょ」
「なんだよ。今は無理でもこの先はわからねぇぞ。ガンガン腕を上げてA級、それを超えたS級の冒険者になるかもしれないぜ」
「もし王具が使えるほどの闘士になったら、あんたの言うことをひとつだけ聞いてあげるわ」
「その言葉、忘れるんじゃねぇぞ!」
どんどん話が逸れていくリオーレ兄妹の会話に混ざることなく、ハルカは今後のことを予想しつつ落ち込んでいた。しかし、そんな仲間たちの妄想とハルカの心配をよそに、エリオは三日後の昼にいつもと変わらぬ様相で戻ってきた。
緊急里帰りの理由はエリオの口からは語られず、パーティー解散を懸念した仲間たちはそれ以上触れることができなかった。
そんなエリオがハルカに買い出しをお願いしたのは、日も傾き始めた時間帯だった。いつもより量が多いな、と思いながら買い物を終えたハルカが帰宅すると、仲間たちが出発の準備をして待っていた。
「どうしたんですか? もう日が暮れるのに。まさか今から出発するんですか?」
「そう出発よ。日が完全に沈んだらね」
安全第一のレミらしからぬ危険な発言だが、それが本気なのだと彼女の心の色が告げている。
「でも、夜に出発するのは危険だっていうのがギルドの基本ルールに……」
困惑するハルカにエリオが言った。
「ギルドの依頼ならそうなんだけど、これからやることは私用なんだ」
「私用? 依頼ではないってことですか?」
その理由はわからない。買い出しをお願いされるまでそんな話は出ていなかったのだから。
「買ってきてもらった物を分配しよう」
買い物袋を受け取ったエリオは携帯食や保存食などを手早く分配する。買い物リストに高価なポーションが入っていたことで、今回の依頼の難易度は高いのだろうとハルカは思っていた。それがギルド依頼ではなく私用となれば余計に気になるところだった。
「そうだ、みんなにこれを渡しとかないと」
そう言ってエリオが差し出したのは球状の魔道具だ。説明によれば拘束作用のある結界を作り出す物で、魔族にも効果がある逸品だという。
「師匠が用意してくれたんだ。いざってときのために腰にでもぶら下げておいて」
これほどの魔道具を用意していることで、エリオが何をしようとしているのかますます気になったハルカは我慢できずに口にした。
「依頼ではないのなら、いったいなんなのですか?」
荷物を詰める手を止めたエリオは視線を上げる。その目から伝わるのは真剣な意思であり、心の色を感じずとも、エリオが言うことが本気なのだとハルカは理解した。
このあとエリオは、早朝出発する予定があるという理由で預けてある王具を引き取りにギルドに向かった。ハルカたちはというと、昼間に町の外の森の中に隠しておいた馬車で待機してエリオを待っていた。
「本当にいいのですか? こんなことして」
「聞かないでぇ! やる前から後悔しちゃうから」
「エリオが師匠のところに帰ったのは、これをするためだったなんてよ」
「エリオひとりでやるつもりだったのを、俺たちも手を上げちまったんだ。やめるなら今のうちだぜ」
「やめません。ただ、わたしが買い出しに行っているあいだにこんな重要な話をしていたことが不服なんです」
ほっぺたを膨らますハルカを見て、やれやれとばかりにザックは補足する。
「エリオはな、おまえだけは連れていくつもりだったんだよ」
「え? わたしだけ……」
「おい、ザック。それは言わない約束だろ」
(エリオさん、わたしだけは連れていこうとしてくれてたの? なんで? それってまさか!?)
妄想は期待に変わり、期待は根拠のない予感を加速させ、ハルカの恋心を激しく刺激する。
「このことはハルカには秘密にするってことだったから、エリオに理由を聞いたりするなよ」
「ハルカ聞いてる? 教えたことはエリオには内緒だからね」
「ダメだ、聞いてねぇ」
天に昇らんばかりに心をふわふわさせていたハルカだったが、グレンを受け取ったエリオが戻って来る気配を察知すると勢いよく立ち上がった。
「来ました! エリオさんです」
目を輝かせてエリオを出迎えに馬車を降りていくハルカの姿を見たレミが呆れるのは何度目だろう。
「ハルカのエリオ感知って凄すぎよね」
「恋の力かぁ……」
誰も口にしてはいなかったが、ハルカのエリオへの想いは周知の事実だ。当人同士がそのことに気づいているかは怪しいところなのだが、それを確認するのは野暮だと仲間たちは気づかぬふりをしていた。
「ハルカの恋、叶えてやれたらって思うけど……」
悲しげな声で言うマルクスに「それは俺たちが気にすることじゃない。エリオの気持ちをハルカがどう受け止めるかだ」とザックは深く踏み込まない姿勢を示した。
「そうね、そのときが来たらふたりが決めることだよね」
これは優しさであると同時に、自分たちにはどうにもできないもどかしさを込めた言葉だった。
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