VS 角無しの魔族(ROUND-2)
ハルカが建物の向こうに落ちていく様子を見ていた魔族はゴレッドとザックにこう言った。
「あれは死ぬことを選んだ場合だ。次は殺されることを選んだ場合を見せてやろうか?」
「そいつは……遠慮したいもんだ」
歴戦の元冒険者十闘士ゴレッドが戦闘態勢に移行する。
「遠慮は許さん。なにせ俺は残忍だからな。だが、わずかながら慈悲もある。貴様らの命を境界鏡と交換してやろう」
結界や魔術陣の影響を受けているとはいえ、油断の欠片も許されない相手に、少しでも全盛期の力を発揮しようとゴレッドが気合を込めたとき、魔族の背後に何かを見た。
その一瞬の視線の変化に気づいた魔族の背中に、アルティメットガールの飛び蹴りが突き刺さる。
「ぐぼっ!」
魔族はもんどりうって地面に接触して転がっていった。
「ア、ア、ア……」
「「「「アルティメットガール!」」」」
ザックの叫ぶタイミングに合わせて皆が彼女の名前を呼んだ。
「こんにちは」
優しく涼しげな笑顔の彼女に唖然としながらも、皆は挨拶を返した。
アルティメットガールに蹴り飛ばされ、道を転げていった魔族は滑りながら立ち上がり、急制動をかけたのちに彼女に飛びかかる。
「あら、耐えたの? あなた思ったよりも強いのね」
「舐めるな!」
二発、三発と突き出される拳撃。上体を振って避ける彼女の腹に横蹴りが打ち込まれた。だが、その蹴りは彼女の前腕がガッシリと受け止めている。
「顔を合わせたらまずは挨拶するものよ」
小さな子どもをしつけるような顔と声色でそんなふうにいさめると、魔族は額に血管を浮かべながら言い返した。
「先に跳び蹴りをかましてきたのは貴様だろうが!」
激しく力をたぎらせ叫びを上げる魔族から距離を取ったアルティメットガールは、肩にかかった横髪を手の甲でそっと後ろに流しながら言葉を返した。
「後ろから蹴ったんだから顔を合わせてないでしょ」
この魔族を相手に、正面切って屁理屈を言う彼女を、エリオたちはハラハラしながら見ていた。
「手加減してやってたのをいいことに、調子に乗りやがって……」
「あれ? あなた前回、手加減しないって言ってたわよ」
「やかましい!」
皆には、アルティメットガールに揚げ足を取られる魔族がなんだか滑稽に見えていた。
おちょくられたと感じた魔族はさらに怒りを増し、町に施された結界や魔術陣の力を押し返すように気合を入れた。
ゴレッド以外はおののき動けなくなってしまったが、アルティメットガールはそよ風を受けるが如し。
「これを喰らっても余裕をかましていられるか? ソーラーエクリプス・クリメイション」
持ち上げた両手のひらに黒い玉が生成されていく。まわりが少しずつ暗くなっていくのは陽光をも吸い取っているからだ。心なしか吹く風の勢いは衰え、騒めきさえも消えていく。
「この俺の邪魔をした罪を償え!」
投げ放たれた黒い玉は、たとえ避けてもこの一帯は消えてなくなると思えるほどの大魔法だ。
「現役引退なんかするんじゃなかったぜ」
ゴレッドは後悔を叫んだ。
「こんなときに戦えないなんて」
エリオは命の懸ったこの事態に万全の態勢で挑めなかったことを悔やんだ。
ゴレッドの後悔とエリオの悔やみすらも飲み込む魔法を見て、アルティメットガールは悩んでいた。技の名前をどうするかに。
「リフレクションキーーーーークッ!」
数瞬の思考で生み出したネーミングによるキックが、多くの命を刈り取るであろう黒き玉を蹴り返した。
「馬鹿な!」
その声と共に魔族自身も黒い光球へと吸い込まれ、空の彼方へ飛んでいく。
薄暗がりとなったこの場はすぐに元の明るさを取り戻し、黒い玉は皆が見守る中で炎の柱となって燃え散った。
「ごめんね。でも優しく蹴ったわ。だって、わたしはあなたと違って慈悲深いから」
この謝罪を以って、魔族との第二ラウンドは終了した。
「あの魔法凄かったけど大丈夫かしら」
森に落ちる黒い影を見て、戦った相手の心配をしている彼女に声がかけられた。
「アルティメットガール」
それは、ザックに肩を借りて歩いてきたエリオだ。
「エリオさん。みなさんも無事で何よりです」
「君のおかげで町も人も大きな被害はないようだ。だけど……」
言葉を詰まらせるエリオを見て彼女は先回りして答えた。
「大丈夫です。ハルカさんはわたしが助けました」
「ホントに?」
彼女の言葉を聞いてエリオも仲間たちも安堵した。
「あんたがアルティメットガールか」
振り向いた彼女に、ゴレッドは頭を下げた。
「この度は助けてくれてありがとう。心から感謝しています」
慣れない敬語ふうの言葉でどうにか気持ちを伝えるゴレッドに彼女は笑顔を返した。
「町長と衛兵長も合わせて、改めて感謝の言葉とお礼をしたいのだが」
「そのようなことは必要ありません。わたしはただの通りすがりです。運が良かったのだと思ってください」
そう言われてしまったゴレッドはそれ以上無理に誘うことはできなかった。
「あの魔族は死んだのか? もうこの脅威は去ったのか?」
このザックの問いに「どうでしょう」と言葉を濁したのは、魔道具に対する魔族の執着心を懸念してのこと。
「手加減はしましたが、今回は気を失う程度ではすまないと思います。もし生きていたとしても、これであきらめてくれると良いのですが……」
「なんで手加減するんだよ。あんな奴はぶっ殺しちまえばいいんだ。あんたならそれができるんだろ?!」
生死を分かつ思いをしたマルクスの興奮はいまだに冷めない。そんな彼にアルティメットガールは静かに返答する。
「そうですね。そのほうが良いかもしれません。でも、わたしは人を殺したくはありません。人を助けたいのです」
「人って言ったってあいつは魔族だ! そんな温情をかける必要なんてっ!」
「よせ、マルクス」
マルクスの訴えをエリオは制した。
「それが彼女の主義ならば、俺たちがどうこういうことじゃない」
ここでようやくマルクスは息を整えた。
「俺たちの仲間にも似たような考えの子がいてね。物凄い攻撃魔法が使えるのに、適性の低い白魔術でみんなを助けたいって言うんだよ。なのに俺たちと出会ってからはその主義を曲げさせてしまってさ。感謝もあるけど、その何倍も申し訳ないと思うばかりなんだ」
(エリオさん。そんなにわたしの気持ちを考えてくれていたんですね)
アルティメットガールはウルっとくる目に力を込めて涙を堪えた。
「あなたのその思いやりは、きっと彼女の力になりますよ。ですが、もっと彼女のそばにいてあげてください」
そう告げて、アルティメットガールはゆっくりと上昇していく。
「さきほども言いましたが、わたしはたまたまこの事態に遭遇したにすぎません。次も助けられる保証はありませんから、けっして無理はしないでください」
「わかったよ、ありがとう」
了承と感謝の言葉を返したエリオは、ひとこと付け加えた。
「ねぇ、アルティメットガール」
「なんですか?」
「もしまた会うことがあったら時間を作ってくれないかな。少し君と話がしたいんだ」
「えっ?」
その言葉に驚くアルティメットガールにエリオは自然な笑顔で手を振る。
ハッと我に返った彼女は、顔が赤くなっていないか心配しつつ「はい、次の機会があれば」と答え、彼らを背にして飛び去った。
その直後、魔族によって壊されたギルドの扉が大きな音を立てて倒れた。
「エリオさん、お待たせしました。グレンです!」
そう叫んで現れたのは、エリオとゴレッドの王具を両手で抱えるパールだ。
「地下から上がってきたら大きな音がして。壁やら扉やらが崩れていたので時間がかかってしまいました」
「それは大変だったね、ありがとう」
エリオが優しく感謝の言葉を伝えた。
「私はもう止めません。だから、一緒に戦わせてください」
震え声でそう言った彼女は自分の体に見合わない大きな盾を背負っていた。
「うん。その心意気は嬉しいんだけどさ、もう戦いは終わっちゃったんだ」
「え? どういうことですか?」
町の向こうに飛び去ったアルティメットガールのことを思いつつ、エリオは言った。
「さぁ、ハルカを迎えに行こう」
エリオたちはアルティメットガールに救われたハルカを迎えに行くのだった。
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