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仲間のお迎え

 アルティメットガールを見送ったエリオたちは、束の間の休息を取ることもなくハルカを迎えに山を下っていた。


「彼女の言うとおり、このあたりの獣はいないみたいだ。セミールたちはゆっくりでいいよ」


 セミールは軽く手で合図をし、ふたりの仲間の後ろをトボトボと歩いている。リオーレ兄妹とザックは、怪我を押して先を急ぐエリオの後ろで、アルティメットガールについてアレコレと話していた。


「あの民族衣装はどこの国だ?」


「戦闘スタイルは肉弾格闘なのだろうが、肌に密着した服は動きにくそうだし、薄過ぎて戦闘用の防具には見えんな」


「あれは奇抜過ぎてあたしは着れないよ」


「お前のスタイルじゃなぁ。あいつくらいボン、キュッ、ボンしてないと似合わねぇよ」


「あたしはキュートなスタイルをしているのよ。それが証拠に町でどれだけナンパされてるか知ってる?!」


「世の中には物好きがいるからな。あのピチッとした服の女のほうが王道だろ!」


「アルティメットガールだ。恩人の名前くらい覚えてやれ」


「そうそう、アルティメットガールな。俺も彼女の国に行ってみたいなぁ。あんな服の女がいっぱいいるんだろうから。なっ、エリオもそう思うだろ?」


 ザックとリオーレ兄妹がこんな話をしているあいだに、エリオはボロボロの体に鞭を打って歩いている。


「エリオ。その体で無理するな。そんなに急ぐことはないだろ」


 ザックが最後尾から叫ぶのだが、満身創痍のエリオのペースは落ちない。


「そうだぜ。あのナントカガールっていう奴が助けたっていってたじゃないか」


「だからぁ、アルティメットガールよ。あんた覚える気あるの?」


「そうそう、そのアルティメットガールがさ」


「助けられたとはいえ空を舞うほど打ち飛ばされたんだ。無傷とは限らない」


 マサカーサーペントとの戦いで手ひどいダメージを負っているエリオの歩速は仲間たちがゆっくり歩くのとあまり変わらない。それでも彼は、少しでも早くハルカの無事を確認するべく懸命に足を動かしていた。


 山を下ること四十分。ようやく森に入った彼らだが、木々に覆われた森の中からは目的の木は見えない。探索を始めて十五分が過ぎた頃、エリオは森の奥からの小さな音と気配に気づいた。


「ハルカァァァァァァァ」


 痛みを忘れて走るエリオとそれに続く三人の仲間。目視で確認はできないが、エリオはそれがハルカだと確信した。


「エリオさん!」


「良かった、無事だったんだな!」


 ザックたちは走る足の力を緩めて小さく安堵のため息を吐いたのだが、反対にハルカは驚きで心拍を上げていた。なぜなら、エリオが自分を抱き上げ振り回し、さらには強く抱きしめたからだ。


(エ、エリオさん?! うそぉぉぉ)


 エリオに抱きしめられるというハプニングに、ハルカは歓喜と混乱に見舞われながらも抱きしめ返す。自分がこれほどまでに心配されていたのだという実感が、胸と目頭を熱くさせた。


「ちょっとエリオ。ハルカは怪我をしているんじゃないの?」


 レミのその言葉を聞いたエリオは慌ててハルカを地面に下ろした。


(レミさん余計なこと言わないでっ!)


 怪我が痛むのかと心配するエリオは、ガックリと心で肩を落とすハルカを気遣って身体を見回した。


「ごめん! どこが痛いんだ?」


「大丈夫です。エリオさんにかばってもらいましたし、崖から落ちたときにアルティメットガールに助けられたので。どこにも怪我はありません」


「アルティメットガールか……」


 エリオは彼女の言葉を思い返した。


『世界の平和を望み、常人には手に負えないあらゆる脅威から人々を救う女の子よ』


 その言葉通り、彼女はエリオたちの脅威を排除してくれたのだった。


「エリオさん?!」


 ガクリと膝を折って座り込んだエリオをハルカが支えた。


「大丈夫か?」


「いや、もうさすがに疲れたよ。体もあちこち痛いし」


 立ち上がるそぶりも見せずにそう言ったエリオは、そのまま地面に大の字になった。


「わ、わたしが治療します!」


 しかし、どんなに意気込んでも、彼女のアイデンティティである白魔術ではエリオを完全に治療することはできない。本格的な治療をするために急ぎ山を下りると、多くの冒険者たちが拠点の村に戻っていた。


「ヴェルガンたちが戻ってきたぞ」


 あちこちで声が上がるも、遠巻きに見ているだけで近づいてくる者はいない。その原因がザックの持つ魔道具にあることは明らかだ。山の上から感じた恐ろしい力と関係があるのだろうと予想を立て、警戒しながらエリオたちが寄ってくるのをその場で待っていた。


「……おい、何があった?」


 ザックの説明に恐怖に身を固める者がいるなか、腕に自信のある者は小さな笑みを浮かべていた。


「その魔獣と魔族から逃げてきたってわけだな」


「なら俺たちもすぐにここを離れたほうがいい」


「魔獣ならともかく、魔族なんか相手にできるかよ」


 逃げ腰で一歩二歩と下がる者たちはとうぜん知っている。特別な称号を持つ者でなければ魔族を相手にしてはいけないのだと。


 そんな彼らにザックは言った。


「心配することはない。大蛇も魔族もある者が倒してくれた。魔族の生死は確認してはいないが、戦闘不能になっていることは確実だ」


「倒したって? 誰がだ?」


「冒険者十闘士か? 王国の勇者か?」


 その場のどよめきを鎮めたのはエリオだった。


「女の子だよ。常人には手に負えない、あらゆる脅威から人々を救う、ね」


「……女の子?」


 女の子(・・・)というアルティメットガールの言葉をそのまま伝えたことで、皆は幼い少女を連想して困惑した。


「どこかの国の女性冒険者だ。きっとその国の名のある勇者だろう。それほどの強さだった」


 ザックが情報を付け足したことで、皆の思考はある程度まとまり、それらしい人物像を作り上げて落ち着いた。


「ヴィオレントガリルが山を下ってきたのはその魔族が原因で間違いなさそうだよ。奴らも、もう縄張りに戻っていくはずだ。念のため魔族のことは王に報告したほうがいいと思う。誰か行ってもらえない?」


「それなら俺たちが行こう。俺たちはライスーンの城下街のギルドの所属だ」


「うん、お願いするよ」


 残った冒険者たちは数日間拠点に滞在して様子を伺うことになった。怪我が酷かったエリオたちは先に町に戻るようにと言われたが「俺たちが撒いた種だから」と治療を受けつつ留まった。


 魔族は倒されたとはいえ、その存在を聞かされた者たちの神経は張りつめ、眠れない夜を過ごすことになる。

読んでいただきありがとうございます。

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