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救援者と乱入者

 リオーレ兄妹の護りを抜けてくる魔造人形の攻撃をかわしながら、ハルカはチラチラと森の中に視線を送っていた。なぜなら、そこには身を潜める者たちがいるからだ。


 魔造人形は次々に数を増やし、その数が二十体に達すると、エリオたちの陣形は崩れ始めた。


「強いうえに数が多過ぎよ。そのうえ完全に壊さないと起きあがってくるし。もう、どうにかして!」


 レミの弱音を聞いたエリオが切り札を切ろうとしたとき。


「苦戦しているようだな、我がライバルよ!」


 そんな言葉と共に現れた闘士が、レミを襲う魔造人形を切り伏せた。このピンチに駆けつけたのは、エリオのライバルを自称するセミールだった。


「エリオともあろう者が人形相手に手こずるとは。冒険者百選に入って増長したか? それとも足手まといがいるからか?」


「手こずってない、手間取ってるだけさ。それに俺の仲間に足手まといはいないよ」


「そうか。ならばこんな人形などさっさと倒してみせろ」


 セミールは機敏な動きで攻撃をかわし、素早い斬撃を入れてすれ違う。続けて左右から迫る魔造人形が同時に振り下ろした腕を見切り、回転しながら切り払った。


 振り向き、構えを決めた彼だったが、切られた魔造人形はすぐさまセミールに向かってきた。


「どわぁぁぁ。こいつらの耐久力はどうなってるんだ!」


 高い戦闘センスを持ちながら、カッコよさにこだわるあまり決まらない。これが彼の欠点だ。


「セミール、君は下がってハルカを護ってくれ」


 後ろが気になるエリオの要望に対し、気を取り直したセミールはこう答えた。


「後ろのことは心配するな」


 その言葉と同時に森から飛び出したフレスとフォーユンが、リオーレ兄妹の助太刀に入った。


「後ろの守りは任せろ」


「エリオさん遅くなってゴメンね。少し前から居たんだけど、ピンチになってから出ていったほうがカッコイイし恩が売れるからって」


「馬鹿、ばらすんじゃない!」


(あぁ、すぐに出てこなかったのはそういうことだったのか。怖くて出られなかったと思ちゃってごめんなさい)


「いいさ。助けにきてくれてありがとう」


(エリオさんの言葉は本心だから気持ちいいのよね。セミールさんも悪い人じゃないのだけど)


 セミールたちが加わり二分が経過した。倒した魔造人形はまだ八体だが、数を減らすという目的は達成されたため、エリオは仲間に新たな指示を出した。


「ザックは山を下りろ。レミとマルクスもそれに続くんだ。セミールたちも機を見てここを離れてくれ」


「エリオは? それにハルカはどうするのよ」


「こいつらを足止めしながら俺が守るさ」


(エリオさんがわたしを?! ここでふたりっきりに!)


 仲間たちとは違う意味で驚くハルカは状況に似つかわしくない表情で頬を染める。しかし、エリオの意図は『もし、ハルカが魔法を使うことがあっても、グレンの力を解放した自分なら大丈夫』というものだった。


「行け、ザック」


 魔族から奪った魔道具を入れたリュックを投げ渡されたザックが走り出したとき、ハルカの感知能力が何かを捉えた。


「向こうから何かが来ます!」


 エリオもその何かに気づいて振り向くと、その先から木々をなぎ倒して巨大な蛇が現れた。


「マサカーサーペントだ!」


 見慣れないその魔獣の名を叫んだザックは、大蛇の体当たりによって森の中へ打ち飛ばされてしまった。


「うわぁぁぁぁ」


 それを見たマルクスは叫び、レミの手を引いて逃げようとするのだが、魔造人形に阻まれて動けない。


 シュルシュルと音を立てて舌を伸ばす大蛇は、三十メートルを超えようかという全長の体でここ一帯を走り回っていた。


 黒の荒野に生息する魔獣は種類によっては魔族にも匹敵する脅威だ。その魔獣と遭遇してしまったことで、作戦を根底から打ち砕かれたエリオは覚悟を決める。


「戦うしかない」


 エリオのこの言葉に「む、む、無理に決まってるだろう」と弱音を叫んだのはエリオの後ろに隠れたセミールだ。


「レミとフレスを先に逃がす。セミールはふたりを護衛しろ」


 こう指示をしたのは森に飛ばされたザックだった。


「ザックさん。大丈夫ですか?」


 森の中から出てきた彼に治療の白魔術を使おうと駆け寄ったハルカを、ザックは自分の背後に押しやった。


「お前らを守るのが俺の役目だ」


 彼が纏う傷だらけの防具がその言葉に説得力を持たせている。だが……。


(マサカーサーペントっていうあの大蛇。エリオさんが苦労して倒したグレートウルフェンよりずっと強い。いくらなんでも相手が悪いわ)


「無理です、エリオさん。わたしたちに倒せるレベルじゃありません」


「わかってるさ。だから、倒せないまでも疲れさせて追い返す」


 遠くで左右に走り回る大蛇が少しずつ距離を縮めてくる。その大蛇に向かって大盾を構えたザックが飛び出した。


「待ってください!」


「うおっと?!」


 ハルカに腕を掴まれたザックが止まることなど、ふたりの重量差では成り立たないはずなのに、ザックは(くさび)でも打たれたかのようにピタリと止まった。その彼が向かう先が大きく弾けたことで、大蛇は低くしていた頭部を持ち上げて身を引き、皆は爆破地点に、ハルカとエリオはその元凶に視線を向ける。


「貴様ら、俺から境界鏡(きょうかいきょう)を奪うとは、死ぬ覚悟はできているんだろうな……」


(キョウカイキョウ? あの魔道具のことね)


 抑えるような低い声がエリオたちの背筋を凍らせる。振り仰いだ晴れやかな空に浮かんでいたのは儀式をおこなっていた者だ。


「あの褐色の肌。やっぱり魔族じゃないのか?」


「でも、角が無いわよ」


 リオーレ兄妹の疑問をザックが断定した。


「あの透過している黒い翼は魔族だけのモノだ」


 魔族のまわりの空気が歪んでいるように見えるのは、彼の心が生み出した憤怒による事象なのだとエリオたちは理解した。


「あいつ、もう動けるのか」


 強制終了させられた術の後遺症など感じられないほどの強い覇気が、皆の背中に冷たいモノを走らせた。


(強い怒り。でも普通とは違う複雑な感情がある)


 この場を切り抜ける策を何より講じなければならないのだが、魔族の感情の色の理解にハルカの思考は滞り、そのわずかな時間にエリオが動く。ザックからリュックを取り上げて彼は叫んだ。


「みんなは逃げてくれ!」


「ファイムプリズンウォーラル」


 魔法によって屹立した炎の壁が逃走という選択肢を潰し、チリチリと肌を焼く熱気を打ち消すほどの寒気が皆を襲った。


 吐き気をもよおすほどに血の気が引いたレミが、マルクスの袖を掴む。


「わたし、死……ぬ」


 魔族との対峙は死を意味する。抗い難いこの現実にレミの心は折れてしまった。

読んでいただきありがとうございます。

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